暁 〜小説投稿サイト〜
珠瀬鎮守府
木曾ノ章
その6
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まり無線機に返答ということはすっかり忘れてしまってた。
「鳳翔の返答なし。無線機喪失と思われる。予定通り鳳翔を囮として敵艦隊の撃滅に入る。鳳翔の援護には向かうな」
 呼吸が止まった。優しく頬を撫でる八月の風が、何故か酷く煩わしかった。







 ただぼんやりと空を眺めた。流れる雲をのんびりと見る。後ろで始まった戦いは、見る気があまり起きなかった。無線だけが、声としてその戦況を伝えていた。
「敵艦隊発見。砲撃用意、てぇ!」
 続く音割れした砲撃音、その後無線機越しではない遠くの轟音。
「敵二番艦轟沈!」
「敵旗艦損害軽微、撃ち返して来」
 爆音、数瞬後無線機が水に落ちる音がした。
「き、旗艦轟沈!」
「あぁ……」
 直後、死の羽音と何かが弾ける音がした。
「二番艦轟沈!」
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ」
 誰かの絶叫。それを抑える仲間の声。そうしてその叫び声は轟音とともに突然消えた。
「三番艦轟沈。艦載機は戦闘を継続、ほか艦娘は撤退戦を行う」
 その命令に、声の返答は一つ。轟音で返したのが一つだった。そうして痛いほどの無言の時ができた。全員が死んだわけではあるまい。無線機からは砲撃音だけが流れている。
「撤退っ!」
 その声に、返答はなかった。
 私は空をまだ眺めていた。視界の隅には敵艦隊所属の機体が浮いている。そういえば、私の最後の艦載機は何処だろうか、落ちたか、生きているか。基地に帰れたらならいいな。
 そばに水柱が立った。嗚呼、なんだもう私の時間か。
 水柱が立つ。水柱が立つ。水柱が……
「鳳翔さん!」
「ひび」
 声に驚いて後ろを振り返れば、そこには見知らぬ艦娘がいた。装備を見るに空母だろうか。
「あなたは誰?」
「御免!」
 話を聞かず突然謝ってきた彼女に面食らう。初対面のはずだ。
「やっぱり貴方は私を知らなかった」
 そばを過ぎた死の羽音が、なぜだか遠くに感じられた。
「私はこの反抗の為にとって置かれた空母よ。今の今まで温存という免罪符によって戦線から離れていたの。あなたが、貴方達が死ぬ気で戦う最中に鎮守府に腰を下ろし見ているだけだった艦娘よ」
 私は彼女の言葉を録には聞いてはいなかった。そんなことは知っているし、そうして今この状況は悠長に人の話を聞けたものではなかった。
「今はそんなことはどうでもいいのよ、早く逃げなさい。貴方の足なら逃げ切れるわ」
 私の言葉に、彼女は笑った。愉快というよりは、思った通りとなったことへの得意顔に見えた。
「嫌よ、嫌よ嫌よ絶対に嫌」
 場にそぐわぬ笑顔。朗らかさ。
「何を言っているの!」
「だってやっとよ、やっとこの時が来たのよ。私はね、誰よりも私が嫌いだった。今の今まで生きてしまったから
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