木曾ノ章
その6
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、かつての仲間を殺戮しに舞い戻る、と。それを知ったら、知ってしまったら艦娘は戦えなくなった。当たり前だ。相まみえる敵は嘗ての同胞であり、そうして自らもいつしか後輩たちに刃を向ける存在となってしまうのだから。戦えない。戦えるわけがない。
しかし、提督の思惑は違うようだった。どうやらこの事実を周知させることにより無駄死を抑える気のようだ。またそれとは別に、ある計画を提督は進めている。戦艦空母を中心とした超大規模の反抗戦。今はその準備期間だ。相手の戦艦及び空母を沈めるために、碌な装備もないままに旧式駆逐や軽空母を突っ込ませている。倒せれば御の字、倒せなくても、一年後に丸腰の深海棲鬼が増えるだけ。
多大な犠牲を払うこの計画、以外にも艦娘の間には否定的な意見は少なかった。いや、大きな声で否定はできなかった。軍というその性質上、この港の命令系統の頂点に口をそうそう出せるわけでもない。そうして一旦それが受け入れられ始めると今度は保身が始まった。戦艦や空母の娘は大反抗が始まるまでは一切の危険がないのだ。そうして提督はそういう娘の意見を汲み取った。
「鳳翔」
その声が工廠に響くと、中の空気が変わった。今まで良い意味で弛緩していた雰囲気が鋭く尖る。私以外の誰しもがちらりと、はたまた凝視という形で私の後ろ、工廠の入り口を見やる。私は無駄にゆっくりと振り返った。
「おや、提督ではありませんか」
いつも通りの声音といつも通りの顔で答えた。答えられたはずだ。
「どうしたの提督。鳳翔さんは今帰りだよ」
さり気なく私の前に立ってくれた響に心のなかでお礼をして、提督の返事を待つ。
「よくぞ帰ってきたな鳳翔。流石だ、今まで生きて帰ってきただけはある。さて、それでだ。早速で悪いがもう一度出撃してくれたまえ。一人でな」
前半をぼぅっと聞いていた私は、後半を聞いて血の気が引いた。視界が白黒に後退し、音がぼんやりとする。平衡感覚がぶれて、半歩のさらに半分の距離を右足が移動した。提督の意図は明確である。工廠のあちこちで小さく鳴っていた作業音が止まった。皆、この話に耳を済ませていたのだろう。一瞬痛い程の静寂が工廠を包んだ。
今日まで散っていった輩の顔を思い出す。今度は同じように、誰かが私を同列に思い出すのだろう。……提督は私に死ねと申された。出撃と彼は言ったが、その先起こるのは戦闘ではない。一変の勝利も想定されない闘争を人は自殺行為と呼び、そうして一変の帰還の想定がない出立は特攻という。
「巫山戯るな」
響が唸った。明確な敵意を提督に向ける。だが提督に気にする様子はなかった。
「良いな鳳翔。では、この後私の元へ来い」
「……了解しました」
彼が背中を向け一歩を踏み出した瞬間に、私の後ろ手、整備士その他がいる場所が音だった。軽い音ではない。何か重量のある金属
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