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珠瀬鎮守府
木曾ノ章
その6
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 混凝土の港道を歩く。見慣れた道、見慣れた建物。こちらを見て見ぬふりをしてどこかへ消える艦娘も見知った顔。そうだ、私は帰ってきたのだ。
 疲労によって震える足で、工廠へと向かう。着いた矢先に私に真っ先に気づいたのは、顔なじみの整備士のおじさんだった。
「鳳翔の嬢ちゃんじゃあねえか。なんだなんだそんなりは」
 老整備士に笑ったつもりで何でもないと答えるが、彼はそんなこと聞いてはいなかったふうに私を問い詰めた。
「またあいつに使われたのか。今日はどこへ行ったんだ!」
 笑って何かを答えようとするが、口をついて出る言葉はなかった。先の戦闘は、思い返すだけで反吐が出る。私を除いた五艦が駆逐艦。そうしてその全てに魚雷を積んで、例に漏れず私の艦載機も攻撃機を積んみこんでの殴り込み。相手は戦艦を中心とした大規模艦隊。結果は始まる前から見えていた。
 まず、旗艦の娘が死んだ。一撃だった。次は二番艦だった。即死だった。次に敵の重巡洋艦が沈んだ。さて、次は誰だったか。ただ確かに覚えていることは、最後、五人目の仲間が私の前で胸から血桜を咲かせた事だけだ。六艦中五艦轟沈一艦大破。敵艦隊損失二内訳重巡一駆逐一。買った負けたで言うならば負けた。いやはや無残に。
「彼女らは?」
 私の後ろから投げかけられた声は、友人の響という駆逐艦のものだった。彼女はこの鎮守府で、この老整備士と共に私の帰りを待っていてくれる数少ない人。
「聞きたい?」
 ただの一言。これだけで全てが彼女に伝わった。
「ああ、そう……後で、聞かせて」
 出撃後、海に果てた娘達の話を響にするのは日課だった。そう、日課と言えるほどに私は出撃を繰り返し、そうして仲間たちは散っていった。
 この鎮守府には二つの噂がある。一つは、ある駆逐艦のものだ。その娘が出撃をすると、勇ましく戦いそうして勝利し必ずしも帰ってくる。いつからかその娘は艦娘の間で不死鳥と呼ばれる事となった。もう一つは、ある軽空母のものだ。その娘が出撃をすると勇ましく戦いそうして敗れるが必ずしも帰ってくる。ただの一人で。いつからかその娘は艦娘の間で死神と呼ばれるようになった。どちらが響でどちらが私の事かは火を見るよりも明らかだろう。故に、私の帰還を喜ばぬ娘たちは多かった。
 大きな舌打ちの音が聞こえる。音の主は老整備士だった。
「五人が死んだか。当たり前だあんな精神状態じゃ。死ぬに決っている。あんなことバラしやがって糞提督が!」
 私達の会話で私以外全員が轟沈した事を察したであろう老整備士は苛立ちを隠さなかった。
 あんなこととは、ある噂の事である。私達の前に現れる敵−−−深海棲鬼−−−は、嘗ての艦娘に他ならないと。現場に、戦線に立てば誰しもが薄々と気づく事。提督は、それを裏付けた。資料を根拠に、凡そ一年で彼女たちはその装束を黒に変え
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