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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
追憶 〜 帝国歴487年(三) 〜
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司令長官とは面識が有りません、何時の間にあれだけの人間を調べたのか。彼らも喜び以上に驚きが有るようです。それが畏怖と心服に繋がっています』
「……メルカッツもかな?」
『メルカッツ提督も副司令長官に心服しています』
「……」
『現状ではローエングラム伯よりもヴァレンシュタイン副司令長官が妙な事を考えるのではないかと心配する方が妥当です。副司令長官はあっという間に宇宙艦隊を掌握してしまいました』
気が付けば溜息が出ていた。最近は厄介な小僧が多すぎる。
『司令長官は抜身の剣のようなところが有りますが副司令長官は……』
「ビロードに包まれた鋼鉄の手か」
『はい。肌触りは滑らかですが中には鋭い爪が有ります。ビロードを取り払えば……』
シューマッハ大佐が神妙な表情をしている。“ビロードに包まれた鋼鉄の手”、この言葉を私に伝えたのが目の前の男だった。日に日に重みを増す言葉だ。
「大佐、その可能性は有ると思うか?」
『可能性だけなら有ります。しかし実現性は……』
「無いと? 確実にそう言えるのか?」
シューマッハ大佐が首を横に振った。
『いえ、分かりません。野心は無さそうに見えますが簡単に心の内を明かす様な人では有りません。副官に亡命者を、女性を用いているのも副官から情報が漏れるのを恐れているからともとれます』
「女性なら漏れやすいのではないか?」
私が問うと大佐が軽く苦笑を浮かべた。面白く無い、女を知らないと言われている様な気分だ。人生経験では私の方が上だ。
『亡命者です、非常に用心深い。彼女に近付く人間は下心有っての接近かと敬遠されています。近付けるのはリューネブルク中将ぐらいのものです』
「なるほど、亡命者なら親しい人間は皆無に近いか」
『はい』
それにしてもリューネブルク中将か、彼も亡命者だったな。彼にも周囲には近しい人間は居ない筈だ。そしてヴァレンシュタインに心服している。その事は陛下御不例の時を思えば分かる。
ローエングラム伯を抑えるためにヴァレンシュタインを引き上げたつもりだった。だが虎に翼を与えてしまったのだろうか。翼を得た虎がこれまで望まなかった野心を夢見るという事も有り得よう。厄介な事になった、どうして最近の若い奴はこうも面倒なのか、溜息が出そうになって慌てて堪えた……。
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