縋るモノに麗しさは無く
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ん! よって……」
言葉を区切って皆の意識を引き付ける彼は、残酷に、冷酷に口を引き裂き……
「こいつの、袁家の当主である袁本初の手によって……既存の袁家の血筋全てを年齢や性別の区別なく……全てを殺させろ。その後、白馬長史本人にこいつを殺させて貰おうか。そうすれば幽州の民達の願いも叶う……そうだろ?」
此れからの乱世と先に作られる平穏の為に、楔を打ち放った。
†
儒教が根深く染み渡っているこの時代の大陸に於いて親殺しは禁忌の行いに等しい。親が子を道具のように扱う事はあろうと、子が親を裏切る事は責められてばかり。
血族の深いつながりによって安定を図ってきたこの大陸の在り方を否定するその望みは、誰の心にも恐怖の楔を打ち込んだ。
厳格な裁決の元による罰というのは本人に降りかかり、血族にも責が及ぶとしても他者が執行するだけである。
それを当事者本人に贖わせるとは、歴史上見ても類を見ない。己が手で栄達を極めてきた家柄に終止符を打たせるとは、大陸で積み上げられてきた家の在り方そのモノへの反逆であろう。
異質な提案を受け入れられるはずが無い理由はもう一つ。
禁忌の行いをした後で、そのモノには死しか残されていないのだ。それほどの事をしても命が救われるわけでは無いのだ。
殺させると言っても、途中で逃げ出すかもしれない。拒むやもしれない。そんな重い罪過を行わずに、自分一人の罪として抱え込んだ方がどれほど楽か。
頭が悪くないから、そして血筋を大切にしてきたから、麗羽は彼の望みに心底から恐怖していた。
――そんなこと……出来るわけありませんわ……わたくしが袁家を根絶するなど……それならわたくし一人で死んだ方が……。
何の罪も無い赤子も、袁に名を連ねているだけで上層部と関わりの無かったモノ達も……全てを殺す。そんな事、出来るわけが無い、と。
彼の言には一つのイトが絡んでいる。
家の責は頭目が背負い贖ってもいい。しかし止められなかった全てが贖う事も必要だ。それは……今は亡き劉表が帝の前で示した事。個人に罪があろうと無かろうと、家が行った罪は家で払うべきだと彼女は示していたのだ。それがあるから帝が結果報告を聞いたとしても、秋斗が提案した事に納得するだろう。
華琳は悪龍を思い出して少しの寂寥が吹き抜ける。
――劉表……あなたとの邂逅は無駄では無かった。帝との不和はあなたのおかげで起こらない。乱そうと思っていたのに乱せなかったと知れば、あなたはどう思うかしら?
おぼろげに思い描いていた道筋は、彼女のおかげで確定された。
他者が罰を与えるでなく、当事者に罰として行わせる……違いはそれだけだが、華琳が欲しい結果の一つを得られる最上の方法に導けた。
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