縋るモノに麗しさは無く
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担いだ斧を緩慢な動作で掲げ上げ……在らんばかりの力を込めて、彼は駆け出した一人に投げつけた。
大切な武器が、憎しみに染まった白馬義従に、敵意を以って投げられた。
「……っ!」
兵士の脚が止まる。一人の男の足元に突き刺さった白馬の片腕の武器に目が行く者と、彼を見つめる者に分かれた。そうして、先程まで喚いていたとは思えない程の静寂が場に広がった。
「まだ俺の話は終わってねぇんだよ。勝手に動くな。次は……殺すぞ?」
冷たく重く、彼の声はその場に響き渡った。彼らのよく知る斧が作り出した静寂に、黒き大徳の命令が絶対者の如く圧しかかった。
すらりと剣を抜き放った彼は、剣を肩に担いで兵士達を一巡見回した。それを合図にしてか、処刑台の後背に槍と剣を構えた曹操軍の兵士達が居並んで行く。
剣と槍の二つの武器を扱う部隊はこの大陸で一つだけ。故に、白馬義従は黙り込むしかなかった。勝手な行動を取るのなら徐晃隊が一人残らず殺してやろう、彼はそう言っているのだから。
「誰がこいつをこのまま生かしてやるなんて言った? 俺は殺さない。お前らも殺してはならない。殺された白馬の片腕の代わりなんざ誰もしちゃダメなんだよ。こいつを殺していいのは……二人だけだ」
すっと剣を麗羽の頸に突き付けて、彼は皆に聞こえるように大きな声で言い放つ。
そのまま、華琳の瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「……我が盟友、覇王曹孟徳! 袁本初を裁いていい者は……皇帝陛下に命を賜った貴女と、袁家に全てを簒奪されし白馬長史、ただ二人だけであろう! しかれども、我が望みを叶えて下さると言うのなら、一つだけ叶えて頂きたい!」
兵士達はその言に衝撃を受けた。
そうだ、と納得するモノは多い。殺していいのは彼では無い。自分達でも無い。全てを奪われた彼女が麗羽を殺す事こそ、彼らにとって至高の結果に他ならないのだから。誰よりも絶望し、誰よりも悲しんだのは白蓮に他ならないのだから。
華琳は高らかな宣言に笑みを深めた。ゾクゾクと背に上る快感があった。彼が此れから何をしようと考えているかを予測して、何を壊したいかを読み取って。
――それでいい。お前が辿り着いた答えは私がしたい事と一致する。此処に居る者だけでなく、この大陸全ての者の固定概念を打ち壊そうか。
ゆったりと椅子に座った華琳は、優雅に膝を汲んで手を重ねた。瑞々しい唇が方頬だけ吊り上り、凛と張りのある声が流される。
「汝が望みとは何ぞや?」
彼はまだ笑わない。感情を一切挟まない無表情のまま、麗羽を一瞥した後に華琳をもう一度見据えた。
「大陸を乱した罪は袁本初だけの罪に非ず! 劉玄徳が治めし徐州を簒奪せんとした袁術がいい例であろう! 袁の血筋を残せば第二第三の袁本初が出現するやもしれ
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