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乱世の確率事象改変
縋るモノに麗しさは無く
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困る。もう戦う事を辞めよう、なんざ口が裂けても言ったりしないがな。

 内心で一人ごちる。
 覇王の遣り方を真っ向から否定するような言い分と誤解させる為に発した言葉。本心では違う。しかしてここで感情に動かされずに理を説いておかなければ、黒麒麟は大徳に成り得ない。
 憎しみの連鎖は簡単に断ち切ることなど出来はしない。力で抑え付けて諦観させるか、信仰する対象が言葉で諦観させるか、時間と共に薄めさせるかくらいしか……個人の澱みは抑えられない。否、抑えたつもりになるしかない。分かってはいるが、彼は此処で正論を伝える事にした。

 並べ立てられた言葉の数々に、白馬義従達の拳が震えていた。
 涙に濡れる頬はやり場のない怒りと憎しみの感情を表す。抑え切れない想いがあるから彼らは戦ったのだ。彼の言葉程度では、到底諦観させるには……足りえない。

「……知るかよ」

 誰かが呟いた。最前列の男だったのかもしれないし、最後方の男だったのかもしれない。
 誰でも良かった。想いの堰を切るのは、白馬義従という個の中の誰でも良かった。

「あんたの考えなんざ知らねぇっ」

 今度は大きく、誰かが口に出した。
 どうでもいい、と。彼の口にする正論も屁理屈もどうでもいい。綺麗事で抑え込めるなら駆けてはいない、と。
 膨れ上がった怨嗟はもう抑え切れない所まで来ていた。故に彼らは……何が彼女の為なのかが頭から抜け落ちる。大群を止められる個人など、もう彼らの中には居ないのだ。

「お前が殺さないなら……俺達にそいつを殺させろっ!」

 誰かがやろうと言い出せば、他の誰かがそれに乗っかる。群集心理は矛先を向けるモノを見つけたならそれに従い、それに向かう。
 そうだ、俺達が殺せばいい。徐公明が殺さないなら、俺達に殺させろ。そうすれば……彼女の為になるのだから……。
 怒号も、罵声も、軽蔑も、侮辱も口に出されていた。止めるのなら彼でさえ敵。袁紹は悪として裁かれなければならない。この場がどういったモノかも知ったものか。裁くのは……自分達こそ相応しい。彼らの頭の中は一色に染まって行った。
 怨嗟が燃え、その場は昏い感情が爆発する醜悪な様相を為した。

 裏切りだ、と誰かが叫ぶ。期待していたモノが圧倒的多数。あの男は我らが主の事も、我らの事もなんとも思っていないのだ……と。
 お願いします、と懇願も少ないが張り上がっていた。主の友であるあなたにこそ、殺して欲しいから……と。
 殺してやる、と殺意が……漸く上がった。駆けだす男が一人いた。彼が殺さないなら自分が殺してやる……そんな……

――思い上がりの甚だしい優しいバカ野郎……お前のような奴を、待っていた……。

 誰もが秋斗に目を向けていたから、その動作を見逃すモノなど居なかった。
 肩に
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