縋るモノに麗しさは無く
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どんだけ黒麒麟に殺させたいんだよ、お前ら。
ほぼ組み立てた道筋に持ち直せたのだが、白馬義従から黒麒麟に向ける期待の大きさを見誤っていたと改める。
それだけ兵士達は彼の憎しみを信じていて、自分達と同じだと思っていたという事。
誰も言葉を発さないから仕方なく、彼はまた、ため息を一つ落としてから話を続けて行った。
「別にこいつが死のうが生きようがどっちでもいいんだよ。俺は幽州を平穏な大地に戻したいだけで……」
口から出る嘘は、自分が知らない思い出を曖昧にぼかして勘違いさせる為のモノ。
区切って次の言葉を待たせる彼は、斧を引き抜いて肩に担いだ。
「白馬の片腕の敵討ちなんざするつもりは……無い」
言い切られて直ぐ、ギシリ、と幾重も音が鳴った。
固く握られた拳は何を思ってか、白馬義従の幾人か……それも牡丹の隊で生き残っていたモノ達が憎らしげに彼を見上げていた。
「じゃああんたはっ……関靖様が殺されたってのに袁家が憎くないってのか!?」
「あんなに楽しそうに口喧嘩してたじゃねぇか!」
「あの人はもう戻って来ないんだぞ!?」
「俺らの王が守ってきた平穏はそいつに壊されちまったんだ! なのに……なんでだ!」
黙っていられずに、口々に怒りの声が飛ぶ。
もう戻って来ない平穏な時間を見てきた彼らに触発されて、白馬義従全てが彼を睨みつけた。
「公孫賛様はなぁ! どんだけ追い詰められても膝を付かずに家の為に戦ってたんだ!」
怒りを抑えられないモノが居た。
「どれだけ誇り高く戦ったか……どれだけっ……辛い戦いだったと思ってやがる!」
男泣きに暮れるものが居た。
「裏切られて、騙されて、貶められて、拒絶されて、追い詰められて……最後の最後まで戦おうとしてた所を、関靖様の命使って生き延びるなんて……!」
彼女の絶望に想いを馳せるモノが居た。
「それでも耐えてたあの方の想いを……あんたなら分かってくれるだろ!?」
彼を信じているモノが居た。
「城中に響く慟哭を受け止めたのはあんたじゃねぇのか!」
自分では支えられないと知るモノが居た。
「おい、答えろよ! 泣いてたんだろ!? 関靖様の死を聞いても泣かなかったあの方がっ!」
張り上がる声は悔しさから、不甲斐無さから、大切なモノを失った喪失感から、そして……敵に対する憎しみから。
涙を浮かべるモノが居た。歯を噛みしめて耐えるモノが居た。胸をぎゅうと抑えて、心が痛むのに耐えている者達が居た。
「それなのに……あの方が絶望に落とされたってのにっ……お前はっ……そいつを殺したいと思わねぇのかよぉっ! 徐公明ぇぇぇっ!」
最後に、一つの叫びが、彼に向けられた。
突き刺さる瞳
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