縋るモノに麗しさは無く
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た。
「我が友……いんや、堅苦しい言葉なんざいらないな。“俺の友達”が願ったモノは何か……答えてみろ、白の兵士達」
薄く開いた目から、冷たい視線が彼らに注がれる。
侮蔑と呆れを込めた眼差しを向けられて浮かぶのは……疑念。
しかして彼らは振り払い。思考を回す時間は少なく、誰ともなしに一人が口を開いた。
「我らが家、白馬の王が愛した幽州の大地に平穏をっ」
ざわめきは無く、皆が頷いて同意を広げていた。誰一人として異を挟むモノは居なかった。
じっと見やって、彼は鼻を鳴らす。嘲りの感情をふんだんに込めているとは誰も気付かない。
「だからお前らが袁家を滅ぼしに来た。だからお前らはこいつを殺しに来た……それでいいのか?」
『応っ』
乱れの無い返答は夜天に広がり上った。お前もそうだろう……そう問いかけるように。
彼らは信じていた。その侮辱の向いている先が袁家に対してだろうと信じてやまない。
袁家の兵士達は白馬義従から溢れる殺気に怯えた。これから何が始まるのか……もしかしたらこのまま自分達も殺されるのではないか、と。
張り詰めた空気は弓弦の如く。
出来る事なら憎悪の対象をその手で滅したい兵士達は、彼の言葉を黙して待った。
夜風がざわめき、篝火が大きく燃え上がる。照らされた秋斗の表情は……つまらないモノを見下すモノに変わる。冷たい視線だけが、白馬義従へと注がれた。
「……じゃあ俺はお前らとは違う。俺はこの女を“殺さない”。例え曹孟徳殿に命じられようと、この女を殺してなんかやらん」
静かに、彼の声が重たく響く。
その場に居るモノの中で、耳を疑ったのは彼と華琳の狙いを理解しているモノ以外の全てであった。
思考が止まる白馬義従と袁紹軍。
麗羽はその言を信じられるはずもなく、彼の背を凝視して……思い至る。
自分は殺さないと言っただけ。それなら……目の前の兵士達にありとあらゆる痛苦を与えられた上で殺されるのだと恐怖し、震え始めた。
同じ結論に辿り着いた斗詩は――
「声出すな、指先一つ動かすな、そのまま……なぁんにもしちゃダメー♪」
声を発するよりも先に、明によって口を塞がれ地に伏せさせられる。それを見た猪々子が睨むも、明は涼しい顔で流すだけであった。
秋斗には華琳が笑う顔が良く見えた。
それで? と問いかける楽しげな視線は、この舞台を特等席で楽しんでいる観客のように見える。
――あの男はなんと言った?
ふいと浮かぶ思考の発露。空白の中に自問が放たれるも、白馬義従の兵士達は彼の発した言葉の意味を呑み込めない。
困惑に支配されている場を見回して、秋斗はため息を吐いた。
――じゃあ自分達が殺そうとかそういう事を言って欲しかったんだが……
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