縋るモノに麗しさは無く
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袁紹軍の兵士達! “袁麗羽”に助力する事を禁ずる! 貴様らが誇りと忠義を持っていたというのなら、主の想いを穢してはならん!」
困惑の場に響いた声は覇王が落とした恐怖を取り払い、彼らの心に火を灯す着火剤となった。
場には昏い熱気が溢れた。殺したくて殺したくて仕方ないそのモノを目の前にして、彼らが想いを抑える事など出来ようか。
落下の痛みから未だ動けずにいる麗羽に向けて、突き刺さるのは幾多の弾劾。
恨みつらみを並べ立て、大切な平穏を思い出して零れる涙と、誇りを奪われた屈辱の吐息。
直接叩き込まれる怨嗟の声に心を痛めながら、それでもゆっくり、ゆっくりと麗羽は動き始めた。
ずり……ずり……と少しずつ身体をくねらせて進んで行く彼女は泥と血に塗れ、優雅さの欠片も見当たらない。
泣きそうな顔で袁紹軍の兵士達は見るも、彼女の誇りを穢してしまうと手は貸せなかった。彼らの王である麗羽は……誰かの救いなど求めていない。
隣に立ち、鎌を担いでにやけて進むのは……赤い髪を靡かせた揚羽蝶。
「邪魔が入ったらダメだから一応守ってあげるね、本初♪ どうせ辿り着くなんて無理だと思うけど、さ」
死神のようなその女の言葉に、
「……感謝しますわ」
ぽつりと一言だけ零して、麗羽は痛みに引き攣る顔を上げて前を見据えた。
遠く、高い場所で覇王が笑う。
屈辱は感じなかった。
怨む心も無かった。
しかし突き立つ怨嗟の言葉の刃が痛くて、袁紹としての過去が不甲斐無くて……彼女の視界はぼやけ、頬を熱い雫が伝っていた。
今の彼女に誇りは無かった。
彼女が縋り付いてでも叶えたいモノは、後悔と懺悔の想いだけだった。
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