縋るモノに麗しさは無く
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。この世界に生きるモノ達にとっての真名と言うモノは。
個人がどう扱ったかによって変わるにせよ、大きな考え方は変わらない。
――やっぱり……真名を捧げるってのはそれほどやばい事なんだな。
そんな事を内心で一人ごちる事が出来るのは、この世界では彼だけ。
秋斗は真名の大切さを、本当の意味では分からない。この世界の異物である彼には分からないが……自分にたった一つ残された本物の存在証明である為に、彼女達と同じく大切なモノではあった。だからこそ月も詠も真名では呼ばない事に決めたのだ。
ただ、名についての考えが安くなってしまった現代人からすれば、この世界の真名という概念は、氏も名も奪われた彼からしてもさらに異質。誰でも好きに名を呼んでいい彼の生きていた世界とは、真名だけが全く違うのだ。
故に、その違いを彼は策にしようとした。帝が絶対不可侵であるのなら、それ相応の対価を以ってしなければ麗羽を生かす事など出来ないだろう、と。
彼が考え付けたのはただ別世界の人間だからと言うだけで、華琳のように厳正な判断を下したわけではない。
――このままじゃ……拙い。
恐慌状態に陥りそうなその場を纏める為に、秋斗は剣を物見台に突き刺した。
大きな音が鳴り、ギシギシと木が軋みを上げる。ハッと気付いて、皆の目が向く先は彼のみ。
「……真名とは他者がどうこうしていいモノではない。だが、絶対不可侵であるはずの帝を脅かそうとした罪は、真名を世界に捧げさせる程に重い……それもこいつに対する罰か、曹孟徳殿」
鋭く突き刺すような声を向けた秋斗に対して、華琳は首を振って否を示した。
「いいえ、まだ足りない。袁本初が世界に真名を捧げた証明として……名と、字を奪いましょう。そうすれば公孫賛がそのモノを殺さなくとも、袁紹と言う人間は残らず、“袁家の麗羽”という人間が残るだけ」
“袁紹”が世界から消える。別人として生きるでなく、姓を奪わない事で、世界に存在を捧げた“袁家の麗羽”というただ一人の人だけが残る。
その足跡は帝への逆臣にして家を滅亡させた大悪人。真名が語り継がれるのだから、彼女の存在全てが泥と怨嗟と悪徳に塗れる事になるのだ。
恐ろしい……と耐えきれずに膝を付いたのは、詠だった。
名も字も奪われた彼女が、麗羽に対して一番の同情を抱いていた。憎しみはあったが、それでも、と。
――ボク達は少なくとも、秋斗のおかげで真名をあんまり呼ばれなかった。正体だってバレてない。でも袁紹は……存在そのものが……世界中の人々と、これから産まれ出でて生きていく人々に蹂躙され続ける。そんなのって……ボク達よりも酷いじゃない……
別の呼び名を付けただけだとしても、秋斗は月と詠の真名を守った。誰かに勝手に呼ばれるのは辛いだろう
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