縋るモノに麗しさは無く
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だけ頬を吊り上げて返した。
「なに、簡単な事よ。“袁紹という存在を世界に捧げればいい”」
「……どういう事かな?」
二人の浮かべる薄い笑みは悪辣に見えた。互いに何をするか理解した上で笑い合う。
彼女は平穏の為の覇王で、“敵”に対して冷酷に成れる乱世の奸雄。覇王は、“この楽しい乱世”を哂った。
演じる彼は平穏の為の大徳で、“敵”に対して残酷なだけの黒麒麟。しかし道化師は、“この世界”を嘲笑った。
「袁本初の真名を世に余すところ無く開示し、世に生きる人々全てに捧げよう。此れより後、そこらにいる兵士も、民も、赤子も老人も、女も男も、賊徒も官僚も、王も将も軍師でさえも、誰もが袁本初の真名を呼んでいい事にしましょうか」
瞬間、息を呑む音が幾重にも重なった。
カラン……と乾いた金属音が幾つか鳴る。兵士の中には武器を取り落としてしまうモノ達さえ居たのだ。
華琳と秋斗、どちらかがソレを言うと分かっていた朔夜と桂花、そして雛里でさえ、真っ青に顔の色を抜け落ちさせて膝から崩れ落ちそうになっていた。
彼女達でさえソレなのだ。もっと酷いモノは幾人も居る。
沙和と凪は、弾けるように飛び跳ねて恐怖に慄き、すぐさま華琳に何かを言おうとして春蘭に止められる。春蘭でさえ脂汗を浮かべて恐怖に震えていた。
真桜はとんでもないモノを見るような目で華琳を見るも、唇をぎゅうと噛んでどうにか声を上げずに済んだ。
霞は詠の手を握り、詠はその手を力強く握りしめる。どちらもじっとりと湿る掌は畏怖と後悔に塗れている。
秋蘭は泣きだしそうな目で華琳を見やり、声を上げそうになった季衣と流琉を抑え込んでから秋斗を見つめて、悲壮に眉を顰めて首を左右に振った。
稟は固い表情で頭を回そうとするも息が上がっていた。他人事であるのに過呼吸に陥る寸前であった。
風は眉を顰めて、ぽろりと飴を地面に落としたが気付かなかった。秋斗を見据えて、彼の予想の通りだと読み取り、泣きそうな顔でじっと見つめた。
覇王が放った言葉の意味を、この世界に産まれたモノ全てが恐れないはずがないのだ。
“真名は唯一絶対の不可侵にして、穢されてはならない神聖なモノ”
他人が勝手に呼ぶだけで頸を飛ばされても仕方なし……それを他者に捧げるとはどういうモノか。
真名を捧げるというのなら、存在を蹂躙されようと文句は言えない。誰かにモノのように扱われようと構わないという事。
例えば華琳に対して、春蘭と秋蘭は真名を捧げていると言える。故に華琳は、彼女達の全てを決定してもいい。
華琳が春蘭に向かって“誰々と結婚しろ”と言えば必ずそうしなければならない。
華琳が秋蘭に向かって“誰々に真名を預けろ”と言えば必ずそうしなければならない。
それほどなのだ
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