13話 「私は拒絶する」
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筈なのに、継ぎ目らしいものさえ感じられない。
――どういうことだ?
首と体が別れを告げても生きている生物など見たこともない。ましてヒト種でそのような身体構造をしている者などいるのだろうか。果たして、今見ているこれが死後の世界だというのならあまりに状況が出来過ぎている。
「カナリア。俺の首は繋がっているか?」
「……………ブラッドさん、帰りましょう」
「カナリア?」
「帰りましょう、って言ったんです。一人で暗殺者を追いかけて、こんな目に遭って疲れてるでしょ?皆もきっと心配してるし、無茶しすぎです」
カナリアは、手を無理やり引くように力づくで俺を移動させる。
聞きたいことにも答えずに、こちらに顔を見せようともしない彼女の態度に驚くが、しばらく歩いたカナリアは足を止めてぽつりと呟いた。
「大切な人がまた殺されるなんて、私は嫌ですよ」
それは彼女がマーセナリーになるきっかけになった、彼女に打ち込まれた楔。
ブラッドはまだその楔の存在しか知らない。詳しい事を彼女は語らない。
だがその記憶を思い出す時の彼女の横顔を見ると、心のどこかが悲鳴を上げた。
「昔の事を思い出させた罰です。今日は言うこと聞いてください」
「……分かった。俺もお前のそんな顔は見たくない」
「誰がさせたと思ってるんですか……ばか」
こんな時ばかり、いつも戦いばかりの自分が空しくなる。
気の利いた言葉ひとつ浮かんでこないのだから。
斬られた後の俺に何が起きたのかを知るには、彼女の機嫌が直るのを待つしかなさそうだ。
= =
その日の『泡沫』はぴりぴりしていた。
一種の不可侵地域であるマーセナリーに襲撃を仕掛けてくる輩が出たのだ。それも無理はない。
ネスは俺が帰ってきて以来ずっと工房に籠っている。ナージャさえも寄せ付けないその心中はどのようなものなのか。厄介な相手を受け入れてしまった後悔か、宿を壊された喪失感か。どちらにせよ、迂闊に踏み込むべきではない。
それよりも、俺は一刻も早く確かめたい真実を知るためにカナリアに詰問した。
俺の部屋は穴が開いたため、話はカナリアの部屋で行われている。
「カナリア――昨日お前が見た全てを教えてくれ。お前は、あの現場を見ていたろう?意識を失う前、お前の悲鳴が聞こえた」
「………………」
表情が青い。まず間違いなく彼女は何かを見ている。
リメインズ内部でマーセナリーが大けがしているのを見れば多少は顔をしかめるし、魔物の血の噴水に引くこともある彼女だが、顔から血の気が引くほどの反応は今まで見たことがない。
やがて、カナリアは絞り出すようにこう言った。
「ブラッドさん。過去なんてどうでもいいじゃないですか」
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