始まりから二番目の物語
第五話
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自らを抱きかかえる様に両手を胸元で交差させ、少女はそっと瞳を閉じた。
「でも貴方は、彼等同様にその予定運命の外側にいる」
予定運命。元来は発生学の単語だった筈だ。
細胞が将来どの組織、器官に分化するか決定する事。
……うろ覚えだが、確かその様な概念だった筈だ。
「……彼等?」
「そう、“始まりの女-イヴ-”。“勝者の王-カンピオーネ-”そして、“真の敗者の王-シャオ-”」
少女はそう淡々と言葉にする。
「予定運命とは云わば定められた世界の定律音。予め用意された、未知なき道。“全ての約束された子供達”が通るべくする道」
それが誰を指しているのか、俺には理解出来なかった。
だがそれを意にも返さずに、少女は言葉を詠う様に諳んじる。
「ねぇ、霧嗣。…いえ、cori toge sheza?」
俺の名前を、母親が付けてくれたセラフェノ音階での名を口にする。
それも、両親と親しき者しか知らないものであるのに。
セラフェノ音語において、俺の名は始まりの集う羽根という意味を成す。
coriは始まり、togeは集う、shezaは羽根。
それらを縮め、日本語読みにして霧嗣と読む。
「“虹色”同様、世界に色を宿し、可能性を生み出した“夜色”の後継者よ」
虹色、夜明。
それもまた何を指しているのか、俺にはさっぱり解らない。
「ねぇ霧嗣、始まりはいつだったと思う?」
瞳を開き、彼女はそう俺に問いを投げた。
2
「…始まり?」
あまりに抽象的な問い掛けに、時夜はその言葉をそのまま繰り返した。
「そう、始まり」
感情を映さない虚ろな表情で虚空を見つめて、緋色の髪の少女もまた繰り返す。
「答は決して一つじゃない。けれど、最も古い時間、全てのヒトが忘れた過去に埋もれた答が一つある」
まるで昔話を聞かせる様に、少女はゆっくりゆっくりと告げてきた。
「ねぇ霧嗣、ヒトは生まれた時は何色だと思う?」
「…色なんて、つけようがない」
生まれた時から何もかもが決定づけられている。
現実はどうか知らないが、少なくとも、自分はそんな定められた運命の様なものはご免だ。
「そう、その通りよ。貴方はそれが分かってる」
にこりと、あまりに無垢な表情で彼女は微笑んだ。
「全ての目覚める子供達は、生まれた時は空っぽの色。“空白-空っぽ-”を抱いて、この世界に生まれる。だから―――始まりの色は空白。透明ではない、無色と呼んでもいけない」
両手を広げる少女。それはまるで虚空を抱き寄せるかの様に。
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