始まりから二番目の物語
第五話
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
立っていた。
足元に咲き乱れる花とまるで一緒の色。輝かしい緋色の髪をした少女。
「…倉橋時夜……いえ、“暮桜霧嗣”。貴方を―――」
くすりと、微笑む様に、懐かしむ様に少女が目を細める。
その瞳には、我が子を愛しむ様な感情が秘められていた。
「私は、貴方の事を待っていた…」
1
「私は、貴方の事を待っていた…」
「……待っていた?」
「そう、私は貴方と相対する為にこの地へと呼び招いた」
俺の目の前に立つのは、俺よりも幾歳か年上の少女。
年齢にして、十代の前半頃。思春期の入りたて頃だろうか。
透き通る様な輝きを放つ緋色の髪の少女。
その肌は真珠の様に白く、また瑞々しい。顔形に至っては、一つの芸術品を思わせる。
……だが、そんな容貌などは言うなれば、どうでもいい。
今危惧するべき事は他にあるのだから。
「そう、そんな姿の是非などどうでもいいでしょう?所詮この姿も“あの子”に借りたものだもの」
俺の心情を見透かした様に、足元の花を愛でていた少女が口にする。
「……君は、誰だ?」
攻撃的な声音で、そう訊ねる。
俺の前世の名を知っている事。それだけの事に意識を警戒させられる。
その青紫色の瞳に、何処か自身の総てを見透かされている様な錯覚に陥る。
それは嘗て、諧調と相対した時の感覚に似ている。
「あら、あの時にもちゃんと教えたじゃない。私の名前」
……あの時?
胸の奥でその言葉を反芻する。だが、澱んだ記憶の中に、それらしき名前はない。
生まれてこの方、この様な場所を訪れた事はない。
まるで自分の記憶ではないのに“思い出す”様に、ただ一つの名前が自然と思い浮かぶ。
―――■□■□■。
「それとも、貴方には“始まりの女-イブ-”の名前の方が大切かしら?」
……イヴ?その名にも、覚えはない。…だが不思議と、その言葉は胸の中を温める。
まるで懐かしい人を想起させる様で。
―――夜色の鐘を鳴らしましょう。
脳裏に詩の一節の様なモノが過る。
まるで幼少の頃に語り聞かされてきた子守歌の様に、懐かしく、柔らに抱擁された記憶を思い出す。
……ああ、それは嘗て前世の母が詠ってくれたものであると。
だが何故、この少女はそれを知っている?
母がその子守歌の様に聴かせてくれた詠は、本当に稀にしか詠う事はなかった。
それは家族である俺でも、幼少期に数度聴いた程度だ。
母はその詠をとても大切にしていて、その美しい声で人前で詠う事はなかった筈だ。
「私は全てを知っているから。全ての過去と全ての未来を知っている」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ