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緋弾のアリア-諧調の担い手-
始まりから二番目の物語
第三話
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1







「―――……っ…ぅ」


声にならない呻き声が、世界へと擦れて届く。
そして、それが自分の物であると、数瞬後に漸く理解した。

―――此、処…は?

心の中でそう呟く、けれどそれに答える人間は誰もいない。
瞼はまるで長年錆付いた扉の様に、強固で開かない。故に、此処が何処なのか知るよしはない。

ただ解ったのは、薄っすらと、瞼の裏に柔らかくそして冷たい光が過ぎる事。
仰向けに自身が寝かされている事。そして、己が己であると言う自己の認識であった。

意識が、記憶が朧気ではっきりとしない。
まるで途切れたカメラのフィルムの様に、一定の所から先の記憶を思い出す事が出来ない。

まるで長い事眠っていた様に、身体が動かない。


「……此処は、どこなんだろう」


目に入る事のない世界を瞼の裏より見据えて、時夜はそう口にする。


「―――お目覚めになりましたか、主様?」


遠くより声が聞こえ、それが徐々に近くへと感じられてくる。
それと同時に意識の拘束が紐解かれ、一滴の油を注したかの様に身体が熱く起動を始める。

心の中で反響するその声が、自身の相棒のものであると不意に気が付いた。
それと同時、錆びた様に開かなかった瞼がその強固な扉を開き始める。

薄く、それでいて眩くて青白い光の中を碧銀色の煌びやかな絹が流れてゆく。
まだ朧気な瞳には、見上げる形でヴィクトリアが映り、ヴィクトリアは見下ろす形で俺の姿が映る。

何故だか、頭越しに感じる柔らかい感触。そして、それとは裏腹に頭が内側からキリキリと痛む。

靄掛かった頭で思考すると、数瞬を経て漸く結論へと至る。
現在の状況から察するに、今の俺はリアに膝枕されている状態であった。


「……ごめん、リア膝枕してもらってて、今退くから―――ッ」


一体、どれだけの時間を眠っていたのだろうか。起動はしたが、身体が鈍く重い。
それだけ長い時間、リア膝枕されていたという事だろう。彼女の性格上、かなりの迷惑を掛けた事だろう。

頭痛に悩まされる頭を押さえながら、苦し気に時夜は起き上がろうとする。
そうして見据える世界は夜明け色に染まった、何処かの浜辺であった。

起き上がろうとするが、それをリアが手で制して身体の位置を元へと戻す。


「いえ、大丈夫です。それに、主様は倒れられたのですからご自愛下さいませ」

「…ッ……倒れた?」


そのリアの言葉が胸中で反芻される。
だが、その言葉に該当する記憶は脳内には存在しない。

途切れたフィルムの様に、自身の記憶を遡る事が出来ない。


……倒れた、俺が?

思わず、もう一度口の中で繰り返し呟く。


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