始まりから二番目の物語
第一話
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世界”へと足を踏み込む。文字通りに、此処から先は別世界なのだ。
1
(……夢、か)
目の前に広がる一つの世界。それを見据えて、時夜はそう心の中で呟いた。
嘗て何度も何度も見た夢の残滓。それ故に、直に気が付いた。
現実感があり、自身がそこにいる様な錯覚を覚える、だが。
これは夢だ。それも嘗ての前世の自身の記憶によって構成された夢。
この夢に置いて、時夜は只の傍観者にしか過ぎない。
世界から俯瞰している様に、ただ見ているしか出来ない。
この夢の主人公は倉橋時夜ではない。そして暮桜霧嗣でもない。
主人公は幼き頃の“薬屋霧嗣”。過去故に、どれだけ変えようとしてもその結末は変わる事はない。
(俺が初めて義母さんに会った時の記憶、か)
視界に映る住居たる屋敷はすっかり焼けて崩れ落ち、見る影もない。
辺りには、焼け焦げた家の柱が炭として転がっている。
寂しい光景。
それを助長するかの様に、空から雪の粒が舞落ちてくる。
見上げた空は赤黒く染め上がっている。それは文字通りの異常な光景だ。
降り下りる雪すらも赤黒く、血の色をしている。それはさながら、天よりの血涙。
それは嘗ての俺が自身が“形成”した世界。
自らが望む渇望に基づき、創り出された自身の法による独界である。
その中で、一人ぽつりと存在する様に白髪に少しの黒髪が混じった美少女と見紛う少年が詠っていた。
それはまるで一枚の高価な絵画の様でありながら、同時に不気味さを覚える。
そう、今なら言う事が出来る。この時の自分は確かに“壊れて”いた。
頬はこけ、目は落ち窪み、そこに人としての生気は感じられない。酷く不気味な異様な存在。
既に死相めいたものさえも浮かんでいる。詠いながら、ごふっ…と嫌な音を立てて、血を吐いた。
首を伝って落ちる血を気にも留めずに、少年は再び詠を紡ぐ。
今こうして、この夢を見ているのは“あの夢”を見た名残なのだろうか?
そもそも、何故俺は今此処にいる…?不意に疑問を覚えた。何故、俺は今この夢を見ているのかと。
(…こうしているだけでも、思い出すな)
見ているだけでも、あの日の感情が胸を一分の隙も無く蘇る。
全てを失い、踏みにじられ、世界に一人しかいないという錯覚に陥る。
大切な物を根こそぎ奪われ、犯され、蹂躙され、自身すらも砕かれてしまったと。
「―――精が出るわね、坊や」
「……誰?」
反応が遅れる。
詠っていた少年は首を傾げ、濁った瞳で目の前の薄紅色の髪をした女性を見据える。
「貴方のお父さんの、妹…つまり、貴方の叔母に当たるわ。お久しぶりね、霧嗣」
「…そう
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