赤い夢
第二話
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気付けば、目の前に文の顔があった。すぐ前にいるのに、意識の外側から声が聞こえた気がした。
俺はそんな彼女に、バレない様に装い笑う。
文が語り掛けてくるそれに、ただただ相槌を返す。
だけど、それももう、俺の耳には入らない。頭の中で唸る鈍痛に発狂しそうになる。
…………ほん…と、に…どうしちゃったんだろう…。
意識を必死に保とうとする。
だが、精神がガリガリ…と、死神のその鎌によって摩耗させられて行くのを俺は感じた。
気が付けば、既に俺と文はバスの停留所まで来ていた。
既に、バスは停まっていて、文が乗り口から此方を見据えている。
お父さんとは、文と合流した時に別れていた。
俺はちゃんと、文の親に挨拶を。自身の親に別れの挨拶をする事が出来ただろうか?
僅か数分、十数分の事すらもう頭の中には留まらない程に俺は弱りきっていた。
もう歩くのすら辛い。今すぐ横になりたい。
……今すぐ、倒れたい。
何時もの癖で、誰も居ぬ背後に向かってそう告げる。
文の後を追って、足を地面に這う様に鉛の様に重たくなった足取りで階段の段差をゆっくりと登る。
顔を、下に伏せる。きっと今の俺の顔を見せれば、きっと無理をしている事がバレてしまう。
何かを言われる前に、俺はバスに乗り込んだ。
バスに乗り込んだ後に、右手に仄かな温もりを感じた。
手に振れる少女の手。
俺の手は気付けば、まるで冷たい雪の様に低い体温をしていた。
「………?」
歪む視界で俺は彼女を見た。
文が、手を取って俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。
顔を下げていて、髪が長かったのが幸いか表情までは読み取られていない。
だが、それが文にとって不安を駆り立てた。
「―――…あ、や?」
擦れた、低い声でそう彼女に尋ねた。
「……時夜くん、大丈夫?行きも辛そうにしてたし…」
彼女がそう訪ねてくる。
その声音から、こちらを酷く気遣っているのを感じ取る。
触れた手と手。文は思った、なんて冷たい手なのだろうと。
今朝から体調が軽く悪いのは、時夜くんのお父さんから聞いていた話だ。
だが、行きも具合悪そうにしていたが、ここまでではなかった。
時夜くんの性格だ。きっと、あまり心配を掛けたくなかったのだろう。
「…ああ、大丈夫だよ。少し頭が痛いだけだから」
いつもと同じ口調、いつもと変わらない笑顔。
だが、とてもそうは見えない。その薄く見える顔と首筋は、見るだけでも冷たさを感じる程に淡白い。
―――平気な筈がない。
気丈に振る舞うその仕草が見ていて痛々しくて、余計にその苦しさを伝えてくる。
私は、強引に時夜くんの顔を上げさせる。
荒く不規則な吐
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