暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリア-諧調の担い手-
赤い夢
第一話
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く、手が絡む首はそれ以上に白くて、か細い。
白という色すらなくなってしまったかの様な、存在感を感じさせない首に指は絡みつく。

爪先が皮膚に僅かに食い込み、細く赤い線を引いていく。口紅の様に、鮮血の様に。
紅い線は指を追って…くるり、と首を一周する。

細い首を、細い指が絡めとる。
肉と骨と皮膚と神経と気管と血管と、そして命の感触。
指の下を血流を流れるのを、ざわざわと感じる。


「―――…くっ…あっ……」


誰もいない。誰にも見られていない。何もない。

昏い世界には何もない。
暗闇の中で首と手の白さだけが、幽霊の様に浮かび上がっている。

それ以外には何も見えない。現実世界からの剥離。
何処に立っているのか、何処に座っているのか、今が何時なのか、ここが何処なのか、それさえも解らない。

脳に空気が行き届かずに、意識に、思考に、思想に弊害が起きる。

時間も場所も暗闇の中にかき消されている。
空を見ても星は見えず、月はなく、ただ闇しかない其処が空なのかすら解らない。


―――首と、手と。


白く締められる首と、白く締める首だけが世界の全てだった。
それを見ている瞳は曖昧。

全てが、遠くの世界の出来事の様に感じる。非現実。
けれど、指に力を入れて、首を締める感触。肉に指が食い込む感触、血管を圧迫する感触。

死の感触。
それはとても鮮明に感じる事が出来た。

首を絞める感触と、首を絞められる感触。
生の感触。

爆発の様に灯りが灯る、赤よりも紅く。青よりも蒼い光が射す。

世界が壊れる感触。空が割れて、隠されていた光が一斉に解き放たれる。
何もない世界に光だけが満ちる。その光の中で俺は明瞭と見た。


三日月に口を獰猛に歪め、血に濡れた―――


“俺の首を絞める俺の姿を”






2










「―――っ…はッ!!」



意識が覚醒すると同時に、思いっきり身を起していた。
意識しての行動ではない。

あの夢から逃げる様に、文字通りに飛び起きたのだ。
身体を覆っていたタオルケットが跳ね飛ばされて、そして…。


『ひゃあああ?!』


枕元に置いてあった時切が、奇声を上げてベッドから落ちて行った。
けれど、今はそれすら気にならなかった。否、気にする余裕が無かった。


「……ひゅ……ひゅぅ」


首に手を馳せて、まるで過呼吸の様に落ち着かない、か細い息を繰り返す。
右手に当てられた心臓より突き破らん程の鼓動が跳ね上がり、背中に冷ややかな汗が流れて、熱い身体を冷ます。

べっとりと、寝巻に張り付く汗が気持ち悪い。
夢の残照で高鳴る鼓動、それがこれは
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