4部分:第四章
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第四章
「それで考えたんですよ」
「何を投げるかか」
「ええ。それにです」
「それに?」
「ストレートも立派な球種ですから」
そうだというのである。
「ですから考えまして」
「それで投げたのか」
「どうだったでしょうか」
投げてからの問いである。
「あれで」
「正直驚いた」
須長はこのことを正直に述べた。
「思い切ったことをしたと思ったさ。御前が直球勝負なんてな」
「いえ、あれは変化球ですよ」
しかし彼はここで笑いながら言った。
「あれはね」
「変化球か?」
「はい、そうです」
まさにそうだというのである。
「あれは変化球ですよ」
「おいおい、ストレートが変化球か?」
それを言われてつい眉を顰めさせる須長だった。その眉も当然ながらビールで濡れている。顔一面がそうなってしまっているのである、
「それは違うだろ」
「いえ、変化球ですよ」
しかし彼はこう言うのだった。
「あれは紛れもなくです」
「何でそう言えるんだ?」
「変化球はあれじゃないですか。相手の意表を衝く」
言うのはこのことだった。
「それでなんですよ。相手は絶対にストレートはないって思ってましたよね」
「ああ、そうだな」
須長もそれはわかった。気配でわかることだった。
「それはな」
「それで投げたんですよ」
「相手の意表を衝いてか」
「だからあれは変化球です」
まさにそれだというのである。
「そういう訳です」
「そうか、わかった」
須長もそれを聞いて頷いた。
「そういうことか」
「ええ、それであれは変化球です」
「そうだな。ストレートでも意表を衝けば変化球になる」
「そうですね、本当に」
それを話してだった。隆博は満足した、勝利者の顔で笑うのだった。それはまさにその変化球で勝負に勝った顔であった。その顔で言ったのである。
変化球 完
2010・3・4
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