2部分:第二章
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第二章
「カーブ、スローカーブにスライダー」
まずは三つであった。
「シュートも投げたな。高速シュートもだ」
持ち球は確かに多い。伊達に変化球投手と自負しているわけではない。なお彼は自分の肘にはかなり気を使っている。変化球を投げることが多いからだ。
「スラーブも投げたな。高速スライダーも」
持ち球がどんどん出て来る。
「縦のカーブも投げた」
所謂昔で言うドロップだ。
「それにシンカーも投げたな」
しかしであったのだ。
「それも駄目だった。フォークもさっきカットされた」
これで十球であったのだ。残るはであった。
「これ、いくか」
セットポジションからサイドスローで投げる。そのボールは。
ふわりとした感じの投球だった。チェンジアップだ。これで相手の意表を憑いたつもりでもあった。だがそのチェンジアップもだ。
内角低め、難しい場所へのボールも打たれた。あえなくカットされそのうえでファールにされたのであった。実に見事だった。
「ちっ、今のもか」
ファールにされた隆博は思わず舌打ちした。
「あれをカットするか」
予想はしていたがであった。それでも悔しいことは事実だ。
そしてだ。彼はあらためて考えた。今度はどうするかであった。
次に投げるボールはだ。これだった。
スプリットだ。緩やかなチェンジアップの次は速めの鋭い変化球だった。しかしそれも。
今度はボールから外角高めに微かに入る油断したらボールと思い見送るそのコースも打たれた。今度は三塁線を微かにそれた。一歩間違えればそれでヒットになっているところであった。
「危なかったな」
今は彼も汗をかく場面だった。本当に一歩間違えれば逆転であった。
その幸運にまずはほっとしてだ。またバッターに顔を戻す。
バッターはそのまま右打席に立ったままだ。対する隆博も右ピッチャーだ。右のサイドスローで投げるところが見難い為有利な筈だった。しかしであった。
それでも打たれる。そうした状況だった。彼は焦ろうとする己をまずは抑えた。
「焦るなよ」
自分自身への言葉である。
「それだけはな」
勝負に焦りは禁物だ。それはわかっていた。だからこそ自分自身に言って聞かせたのである。
そのうえでまた相手を見る。表情はない。あえて消している感じだった。
これまで十二球投げて全てファールされ見送られている。選球眼も確かな相手である。
だがここでだ。彼は少し賭けた。もう一球ボールを投げようと思ったのだ。
「よしっ」
パームであった。外角でそのまま落ちて微かにボールになる。これならどうかと思ったのだ。
しかしそれはあっさりと見送られてしまった。何でもないといった感じであった。
「やっぱりな」
見送られてからの言葉である。
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