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山を越えて
3部分:第三章
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第三章

「確かそうだったよな」
「ああ、大体な」
「それ位だ」
 二人もそうだと答えるのだった。
「まあ頑丈な機体だからな」
「多少の無理は利くがな」
「四トンあるんだけれどな」
 ここで彼が告げた搭載量はこれだけだった。
「それはもう無理だよな」
「・・・・・・おい」
「四トンって何だ?」
 二人は彼の言葉を聞いてだ。それまでは操縦の為に前を見ていた。しかし思わずその顔をそれぞれ彼に向けたのである。
「ジョークにしても笑えないぞ」
「チャップリンならもっと気の利いたこと言うぞ」
「ジョークでこんなこと言うか」
 しかしオーウェルは真顔であった。
「本当に五トン分あるんだよ」
「おい、これからアルプス越えるんだぞ」
「何千メートルの高さなんだぞ」
 二人はあらためてオーウェルに告げた。
「それだけ積んでアルプスを越えられるか」
「絶対に無理だぞそんなの」
「どうする?おい」
 オーウェルは今度は顔を青くさせて二人に問うた。
「これってよ」
「どうするって」
「行くしかないだろ」
 ガンナーが言ってきた。
「御前はドイツに行くしかないんだろう?」
「ああ」
 オーウェルはガンナーのその問いにこくりと頷いた。
「そこが新しい配属先だからな」
「じゃあそれしかないんだよ」
 また言うガンナーだった。
「ここを越えるしかな」
「今アルプスをか」
「やってみるしかないな」
 マックローンも言った。
「ここはな」
「けれどな、山にぶつかったらどうなるんだ?」
「今よりもっと上に行けるぜ」
 マックローンはわざとジョークで同期の質問に答えた。
「天使がお出迎えしてくれてな」
「なあ、マックローン」
「どうした?」
「御前ウエストポイントの時からジョークが下手だったがな」
 彼は全く笑わずに述べていた。
「さらに下手になったんだな」
「そうか」
「そうだよ。俺達が行くのは地獄だろ」
 そういうオーウェルもジョークは下手だった。
「悪いことばかりしてるからな」
「じゃあそっちに行く覚悟はしておくか」
「そうした方がいいだろ。とにかくアルプスは越えるんだな」
「ああ、越える」
 それは絶対だというのだ。
「幸いドイツ軍ももういないしな」
「それだけが不幸中の幸いだな」
 ガンナーはこのことだけはいいと思っていた。
「せめてのな」
「輸送機を敵の中に放り込む馬鹿がいるか」
 マックローンはそれはないと言った。軍事の常識である。
「そうだろうが」
「まあ普通はそうだな」
「それはな」
 マックローンの今の言葉にガンナーとオーウェルも頷く。
「それでもだぜ、今はな」
「四トンも積んでアルプスだからな」
 二人はそれぞれ首を捻って言った。

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