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狐、嫁入り、涙雨
狐、嫁入り、涙雨
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は自分の意志で動ける。ならば、幼い狐に着いて行こう。崖上から落ちた幼い狐、脚に怪我をしていた狐を看てあげた。怪我が完治してから、山へ帰した時の光景が目の前に広がっている。俺と別れた幼狐は森の奥へと進んでいく。親に会いに行くのだろうか。そんな俺の予想は異なった。紅葉に染まる山の奥に進み、そして大きな朱塗りの社に着いた。
『宇迦様! いらっしゃいますか?』
『どうした? 幼き狐よ』
幼い狐と人ならざる存在の会話。不思議なことに理解できた。
『私を……人間にしてください! 人間になって感謝を伝えたい方がいるんです!!』
『ならば我が力の届く限り、汝に人としての生を与えよう。今より汝の名は――――』

「起きた?」
あ、知らぬ間に外が真っ暗だ。まぁ、この寒い時期となると夕方でもかなり暗くなっているが。
「私……夢を見ていたの。君と、初めて逢った日の夢を」
「まさか……俺の見ていた夢は……」
漠然と感じたことが、一つの事実として認識される。だが、そうあってほしくない願望が俺から言葉を奪う。


「私ね、本当は……狐なの」


そんな俺の戸惑いとは裏腹に、唐突に告げられた一花の言葉。驚く俺を置いて、一花は話し続ける。
「私は君に助けてもらった狐なの。どうしても傍にいたかった。だから、狐の神様にお願いして、この姿になれるようにした。でもね、神無月になって神様がこの土地を離れていると……力が足りなくなっちゃうの。去年は頑張れたけど……。今年はダメみたい……。ごめんね。それに、今までありがとう。すごく幸せだよ、私」
今年はダメって……。深く考える前に、どういうことだと一花に尋ねていた。
「死んじゃうわけじゃないよ。でも……この姿にはもうなれないし、光騎くんには見えなくなっちゃう……」
もう会えない……のか。手を繋いだり、一緒に出掛けたり……できないのか。一花がいない世界を……生きるのか。……俺は。知らず知らずのうちに、外には雨が降っていた。……天気雨が。
「狐の嫁入り……だね。あーあ、光騎くんのお嫁さんになりたかったのに……。あのね、最後に……して欲しいの」
「最後だなんて言わなくていい。何だってするから」
「じゃあ、キス……して」
「あぁ……大好きだ、一花」

優しい口付けが光に溶け、二人を包む。永遠のような僅かな時を、心に刻むために。


あれから、何年が経っただろうか。俺の隣で桜を楽しむ女性。"三条"一花その人だ。長い黒髪を一つに結い、優しげな笑顔を浮かべる。銀の指輪が光る左手は、新たな生命を抱く自身の腹部を撫でる。

初めてキスをした直後、出雲から忘れ物を取りに戻ったという宇迦之(うかの)御魂(みたま)神(かみ)様――一花が頼み込んだ狐の神様――が、我が家に立ち寄ったのだ。驚くことに神様自ら、一花を人間と
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