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狐、嫁入り、涙雨
狐、嫁入り、涙雨
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んって、恋人らしい振舞いにこだわるよね。でも……そこがいいよね。あと、私の格好をいつも褒めてくれるのも」
頬を染めての上目遣い、抱き締めたくなる気持ちを抑えて、そっと指を絡ませた。ほのかに香る花の香りに心も安らぐ。
「彼氏として当然だ」
女々しくても気にしない、俺はこの日常が続くことを願う。

でも……この大切な日常が、足下から崩れ落ちる……。そんな日が来てしまう気がして、不安なんだ。
「けほっ、けほっ‥」
「お前、この時期になると体調崩すよな。去年もそうだった。季節の移り目ってやつか」
10月になり、学校の行事も楽しいものになってくる。だが、そんな時期に一花は体調を崩す。今日も風邪気味なので、俺が背負って帰宅中。というか、季節の移り目と言っても、春先や寒くなり始めは平気なのが不思議だ。一度降ろして体温を測る。
「ほら、顔も赤いし熱っぽい。今日は俺の家で休め。近いし薬もあるし。な?」
「うぅ……。顔が赤いのも体温が高いのも、君がおでこで体温を測ろうとするからだよぉ……」
「可愛いこと言わなくていいから。お互い独り暮らしなんだ。助け合いだろ?」
一過性の反抗期のせいで、俺は両親と疎遠になっていた。お互いに堪え性がないらしく、親父は海外転勤を機に、母を連れて出ていった。一軒家に独り暮らし……。せめて兄弟でもいればなぁ……。まあ、一花が妹みたいな感じもするけど。
「……だから、もっと恥ずかしいのに……」
再び一花をおんぶするときに呟かれた言葉は俺には届かなかった。

「入るぞ」
自宅の客間に敷いた布団で、一花は横になっている。去年の看病を教訓に、一花の着替えやパジャマが何着か置いてある。通い妻みたいと一花は言っていたが、いっそ同居したいというのが願望なのか? さすがに……それはないか。そういえば、一人暮らしなのは知ってるけど、一花の家がどこか知らないな……。両親のことも……。まぁ、詮索と束縛は彼氏として、してはいけないことだから、しないけどさ。
「ゆっくり寝ていろよ。今、お粥作り始めるから」
そう言って俺が一花から離れようとすると、ぎゅっと袖を掴まれた。
「行かないで」
「でも、なんか食べて薬を……」
「君の側にいられれば……それが一番」
風邪のせいか頬は赤くて瞳は潤んでいる。庇護欲をそそる可愛らしさに、俺はこの場に留まる選択をした。
「添い寝……してくれる?」
「勿論だ」
一花の髪を梳きながら寝顔を見守る。あどけなくて無垢な寝顔を見ていると、俺まで睡魔に襲われる。睡魔には無理に抗わず自室から枕を取ってくる。そうして俺は一花の隣で眠りに着いた。

これは夢だと分かる夢がある。例えば、目の前に自分がいるとか。今、俺の目の前に五年前の自分と当時の俺が助けた幼い狐がいる。これは確か亡くなった爺さんの山か。自分の身体
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