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乱世の確率事象改変
彼女の為に、彼の為に
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う。
 それぞれで考え抜いて、最後に答え合わせをしよう。そう言ったのは彼だったはずで。
 その時の楽しげな声と、この人の声は一緒だった。

――私はあの時、秋斗さんに届かなかった。

 鼓動が跳ねた。恐怖と羨望が綯い交ぜになった心が渦巻く。
 私には出せない答えを、秋斗さんは導き出す事が出来たのだ。
 渦巻いた心に、一筋の期待の色が湧いていた。
 私が代わりになる事を望んでいるのに……これじゃまるで……。

 答え合わせをしよう……と、彼の声が聴こえた気がした。

「……次の戦に向けて幾多もの先手と、友である白蓮さんの地に安定を。そのため、袁家の一族郎党を処分する事で敵対勢力全てに覇王の名を知らしめて危機感を煽り、乱世収束への行動を早めさせます。黒麒麟なら全ての糸を一段階引き上げようと、自分が袁紹の頸を落とす事を求めるかと……復讐ではないのに、復讐だと嘘をついて。彼は、うそつきでしたから」

 私の中の答えを軽く話した。全てを話さずとも、この人なら読み取っているだろう。
 言いながら、自分の中では違う気がして仕方なかった。彼ならもっとうまく捻じ曲げるのではないか、彼ならもっと違う手段を取るのではないか……そんな気がするのは、どうしてだろう。
 瞳がじわりと熱くなる。泣きそうだった。
 目の前のこの人は黒麒麟じゃない。なのに、期待してしまう。求めてしまう。

――この人は黒麒麟を求めて欲しくなんか、ないはずなのに。

 誰からも黒麒麟を被せられて、今のこの人をちゃんと見る人は居ないのだ。
 違う自分が存在したなど……そんなモノを良く思う人間などいない。誰だって自分を見て欲しくて、自分を認識して欲しいはずなのだ。
 だから私だけは、そんな目で見たくない。求めたくない。
 他人の願いを器に入れるだけの……哀しい存在になんか、ならないで欲しい。

――それでもやっぱりこの人が……私よりも彼に近しいのなら……。

 瞬刻の平穏を思い出させる優しい笑みと、覚悟が宿った眼差し。
 一歩、二歩と彼が近づいて、私の頭から帽子を外して、ゆっくりと屈んで、目線を合わせて……大きな手から温もりを分けてくれた。

「嘘つき、か。じゃあ今それを俺が選んだとして、嘘つきになるのは……誰だ?」

 揺れる瞳が、泣きそうな声が……思いやりだけを浮かべていた。

「命じたのは自分だから気にしないでいいってか? 過去のしがらみを利用した酷い奴は自分だから傷つくなってか? 黒麒麟と同じ策を出せる自分が居るから、俺に好きに生きろってか? お前さんが俺を操るから、憎んでくれってか?」

 黒の瞳が揺れていた。哀しみに、口惜しさに。
 ダメだ。誤魔化されたらダメだ。例え、私のしようとしている事を見透かされていたとしても。


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