彼女の為に、彼の為に
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由を聞く事はせず自分で考えて答えを出そうとする人だから、そうすればどうなるかを読み解いているんだろう。
痛いほどの静寂が場を包んでいた。少し肌寒い風が吹き抜ける。私の心も、冷えていた。
これなら、私はずっとこのままで行ける。想いを伝えずに、冷たい軍師として居れる。
ただ、彼の敵意溢れる視線だけが、私の心に棘を埋めていく。
「……白馬の片腕である関靖の復讐を俺が果たしたとして白馬義従の信頼を得て、幽州掌握の布石と為す、か。繋がるイトは公孫賛との敵対によって劉備への不信感を煽動、漢の再興の芽を叩き潰す……そんなとこだな」
彼が呆れたようにため息を吐いた。
後に浮かべた楽しげな笑みを見て、また、私は呆気に取られる。
「は……足りねぇな」
「え……?」
一瞬、何を言っているか分からなかった。
間の抜けた声が口から洩れた。慌てて噤むと、彼がふるふると頸を振る。
「足りないんだよ、それじゃ。俺にはさ……黒麒麟がそれを選ぶとは思えない」
「……っ」
秋斗さんが、選ばない?
嘘だ。そんなわけない。彼ならこうする。彼なら、誰かに憎まれても他人を利用する。嘘つきになって乱世を動かす。
私は、彼をずっと見てきた。彼とずっと話してきた。彼の隣で、ずっと策を読みとってきた。
初めからだ。彼が乱世に立つ初めから、私は彼の隣に居た……だから、私だけが……
目の前の不敵な笑みが秋斗さんと被った。
私だけが彼の代わりになれるはずなのに、成り立ちも違うこの人では、黒麒麟のマガイモノにしかなれないはずなのに……“彼”が私を否定する。
「そんな、はず……ないですよ? だって、私はずっとあの人と一緒に……居たんですから……」
自然と寄る眉は、心の中の不安を表に出して。
そうしてまた……私は彼の掌の上で踊らされていると気付かなかった。
「やっぱり引っかかったか。関靖の斧を使うってのはさ、お前さんが黒麒麟の代わりに出した策ってわけだ。軍師が他人の思考に捉われ過ぎちゃいけないなぁ」
思考が止まった。
悪戯っぽい笑みも、思い出の中の彼と被って見えて、私の心が乱れて行く。
私にしか通用しないカマ賭け。私が何になろうとしているかを見極める為に行われた言交。
あの人の声で、あの人の笑みで、あの人の……。
ズキリ、と胸が痛んだ。
違う、違う、違う、違う、違う……この人は彼じゃない。
なのにどうしても……胸が痛い。
「クク、黒麒麟がこの戦で欲しがるモノってなんだと思う?」
質問は突然に。“秋斗さん”がこの官渡の戦いで戦っていたなら、そんな可能性の話。
――この人は……私と自分、どちらが彼に近いのかを示そうとしているんだ。
答え合わせをしよ
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