彼女の為に、彼の為に
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たが、あの大地はもはや膨れ上がった期待と渇望が大きすぎて手が付けられないそうです」
「公孫賛を引き摺って連れてきたところで、警戒するべき大地としてしか機能せずに曹操殿の脚を引っ張る……ってとこか。万が一公孫賛が服従しても、民の声が大きくなり過ぎて本人ですら止められなくなる……そんな可能性も大きいんじゃないか?」
「その通りです。華琳様がこれから他勢力への侵攻を開始した時に、反発勢力としての意識が大きすぎるんです。矜持と義によって、まず間違いなく白蓮さんは矢面に立って抗わなければならず……結果的に、幽州の大地を焦土と化すしかなくなるでしょう」
従わないなら、民が全て抗うというのなら……力で滅ぼさざるを得ない。それほどまでに狂信という毒があの大地には染み渡っている。
そうなれば侵略を認めない幽州の大地は、覇王への怨嗟の象徴として、長き平穏を作る上での禍根を残す事になる。
乱世の間、もうあの大地に白蓮さんが居てはダメなのだ。彼女には……華琳様と戦い、力を認められた上で従って貰わなければならない。そうすれば、狂信に染まったあの大地を丸ごと華琳様に従わせられる。
先に従わせるのは却下だ。裏切りだけはさせてはならない。彼女が義を謳うと言うのなら。
「なるほどな。だから幽州の狂信を捻じ曲げる為に、白馬長史の友として有名な黒麒麟の名を使おうってわけだ。白の大地に黒を混ぜ込む……灰色になれば単純な反発は抑えられるし、怨嗟の矛先を、公孫賛を幽州の大地に帰さない劉備一人に向けられる。
その為には処刑の様子を公開して、俺が断罪者としてその場に立ち、“白馬義従達の目の前で”袁紹を殺せばいい……それが君の出した答えか」
予想通りだ、というように彼が笑った。
此処までは彼も考えていたんだろう。他の軍師達も、華琳様もきっと考えているはず。
しかし“秋斗さん”ならもう一手打つ。大切な想い出を持つ彼なら、白馬義従の想いを理解出来る彼なら……間違いなく、人の心を捻じ曲げる為に、偽りでも死人の想いの代弁者になろうとするだろう。
胸が痛い。
思い出そうとしても秋斗さんの笑顔を思い出せない。彼の想いを穢している気がした。
――違うわけない。彼は全てを利用する人だから、大嘘つきだと理解しながらこうするはずなんだ。
心を決めて、じっと彼の瞳を射抜いた。昏い黒が渦巻いていた。ほんの少し悲哀の感情が見て取れたが……構わずに私は言葉を流した。
「……いいえ、もう一つあります。袁本初の頸を、幽州の白馬長史が一の忠臣――関靖の斧を使ってあなたが落としてください」
彼が頸を刎ねるだけでは足りない。彼女の恨みを晴らしたという確かな認識が欲しいのだ。
怨嗟に染まった者達は復讐劇を求めている。生きている人が前に踏み出す為には、復讐
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