彼女の為に、彼の為に
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でいった。
「俺も聞きたい。聞いてみたい事があるんだ。黒麒麟を誰よりも知っている君に」
衣擦れの音がまた聴こえた。
どうして、そんな寂しそうな声を出すんですか。抑えようとしているのが……私には、バレバレです。
記憶を失っても相変わらず、嘘が下手になる時がある……同じ部分を感じる度に、私の心が締め付けられる。
「戯れな質問だけど、黒麒麟なら、さ……夕と明を救えたかな?」
一陣の風が吹き抜けた。まるで彼と私の心の中を表すように。
自分じゃなかったなら誰かを救えたのではないか……そう聞いている。結果として起こった事は変わらないから、愚問だと前置きして。
まるで、昔の私みたい。
『秋斗さんが桃香様の立場なら何を支払いますか』
そう聞いたあの時の私みたいに、彼は後悔と自責の傷を心に負ってしまった。
救えない無力に打ちひしがれて、答えが出ない問題に心を擦り減らす。そうして救いたいと願い続けて、黒麒麟のマガイモノになろうとしているんだろう。
「……いや、いい。無意味な質問だった。俺が此処にいて、俺が選んだ選択肢があって、俺が救えなかった結果が全てだわな」
答えられずにいると、彼が苦笑と共に答えを出した。
後悔はあれど、もしもを求めず。次は必ずと前を向いて進むしかない。そうやっていつも、秋斗さんもこの生死のハザマのような場所で前を向いて来た。
――違う所は一つだけ。この人が黒麒麟と同じになれない理由は、一つだけ。
少なくとも、私の望みは……一つ叶えられている。この人はもう自責の鎖に縛られない。傷は負っても乗り越えて行ける。他者の想いの重責を背負う事は、無い。
安堵があった。心を擦り減らして乱世を越えて行く事が無いから。
悲哀があった。“彼ら”の求めていた優しすぎる彼は、もう居ないから。
「そうですね……きっと彼も、そう言って結論付けたと思います」
じわりと湧く嬉しさと、吹き抜けるような寂しさ。背反する二つの感情が心の中身を満たしていく。
彼がこれから、一番大きな自責の鎖を受けないように……私は勇気を出して振り向いた。
ほとんど同時に、彼が振り向き私と目を合わせた。
暴れそうな心は、もう抑えられた。今の彼が乱世を進んで行っても壊れないと分かった為に。
ただ、彼は冷たい瞳で私を見ていた。
「そうかい……黒麒麟の事が少しでも分かっただけで満足だ」
渦巻く黒が闇色に輝く。まるで自分の敵を見るように。
ズキリ、と心が悲鳴を上げる。
どうして私にそんな目を向けるか分からない。憎しみとは違う。怨みとも違う。ただそこにあるのは……敵意の眼差し。
急に切り替わった。私はその切り替わりをしっていたはずなのに、着いて行けずに茫然と
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