彼女の為に、彼の為に
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事を? 違う、それだけじゃない。間違いなくその程度の事だけじゃない。この人は……一つの目的だけではなく、他にも欲しい結果を求めて動く人なのだから。
「……まあ、ちょっとばかり無茶したよなぁ。皆にも怒られたし」
あっけらかんと言い放つ彼。これは質問に答える気がない時の話し方。誤魔化し、曖昧、ぼかしは彼の常套手段だ。
悲しくて泣きそうになった。ぎゅうと手すりを握った手が震える。
「質問の答えとしては、俺がそうしたいから……かな」
「答えになってません」
「なってるさ」
「なってません。詠さんがどれだけ心配してたか、皆にどれだけ心配を掛けたか……それを理解した上で動いた理由を聞いているんです」
撥ね退けると、彼は大きくため息を宙に溶かした。答えを選んで話す時の彼の癖。でも、敵わないなと苦笑を零してくれたはずが……今の彼は言わなかった。
「……明と夕を助けたかったってのはホント。軍としての利を考えれば優秀な人材は多いに越したことがない。可能性が僅かにでもあるなら、誰が反対しようと俺はそれに賭ける……ってのが一つ。まあ、明と約束したからでもあるけど」
一つ目は彼らしい答えだった。自分の命を秤に乗せて、そうして彼は戦を計算する人。次の戦、その次の戦まで考えて人材という宝を求める人。そして……助けを求められたら救いたくなる人。
「我慢してられなかったってのもホント。戦でどんどん人が死んでいくのに見てるだけとか……そんなの嫌だったんだ。俺が誰かを救いたかった」
誰も救えなかったけどな……と落ちた言葉は寂寥と懺悔に溢れていた。
二つ目。目の前で誰かが人が死んでいくのに耐えられなくて、強い力を持ってるのに動かない自分が嫌で仕方なくて、戦いたいと願ったということ。
黒麒麟に関わった彼らと同じく、洛陽で無茶を通した彼と同じく、救済の渇望を心に宿してしまった。自分の命を度外視するという、黒の在り方に染まった上で。
「……逆に聞こうか。君の知ってる黒麒麟なら、俺と同じことしたんじゃないか?」
切り返す言葉は鋭く、私の心に一筋の切り傷を付けた。
考えてみれば自然と思い浮かぶ。秋斗さんが彼の立場にあったなら……間違いなく助けに向かう。そんなこと、分かり切っている。
張コウさんと田豊さんとは既知の仲。真名を交換もしていた。助けて、と洛陽で求められても居た。逆手に取られて嵌められても、彼は敵を追い詰めた上で、味方にする為に救いに行くに違いない。
詠さんがこの人の事を秋斗さんと同じだというのも頷ける。行動も言動も、ほとんど変わらない。
「……そうですね。間違いなくあなたのように無茶をしたでしょう」
「そうか」
確認するような短い一言が宙に浮いた。緩い吐息を吐き出して、彼は言葉を紡い
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