彼女の為に、彼の為に
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雛里が望んで、秋斗が望んで、皆が望んだ幸せを探せる世にする為に。
今までとは全く違う想いを胸に、するりと言の葉を突き立てた。
「……乱世に華を……世に、平穏を」
継ぎ足した想いは約束のカタチ。彼と皆の想いのカタチ。
紡いだ後に隣の少女を見やって、彼の心は少し満たされた。
向けてくれる微笑みは優しくて、寂寥はあれども翳り無く、幸せになろうとする少女が其処に居た。
†
戦いの幾日後、合流した曹操軍の陣から少し離れた場所に集まる人の群れがあった。
金色の鎧を着こんだ兵士達が武器を与えられずに曹操軍の兵士達に囲まれ、その対面には……白の鎧を来た兵士達が目に怨嗟を込めて並び立っている。
四丈程の間隔の道が二つの間を分け隔て、兵の群れの端、東と西には組み上げられた簡易建造物があった。道にも、兵士達が立つ地にも血と臓物が未だ散らばり、作り上げられた地獄の残滓が横たわっている。
東には、簡易的に作られた十数段の階段で登れる物見台。その頂上では覇気を溢れさせて膝を組む覇王が楽しげな笑みを浮かべていた。
西には……仰々しさの欠片もない武骨な物見台。階段は後ろにしか無く、その頂上には、手首を縄で縛られた王が一人。下には、彼女の両腕であった少女が二人、同じように手を縛られて。
――――お前らのせいでっ!
誰かが叫んだ。
――――俺達の家を帰せっ!
誰かが求めた。
――――ただ死ぬだけじゃ許さねぇぞ!
誰かが喚いた。
幾多も怨嗟の声が浴びせ掛けられても、麗羽は頭を垂れて跪くだけで何も動かない。華琳も、何も言おうとも止めようともしない。
おお……と声が上がった。遠くから近付いてくるその姿に、彼らは期待を向けずにはいられない。
その様子を見て、覇王が手を緩く上げる。
ガツン、と周りを囲む曹操軍の兵士達が一斉に武器を地に突き立てた。
その音を合図に静まり返るその場では動くモノは彼以外に誰も居ない。
ギシリ、ギシリと軋みを上げて階段を上る音がやけに響いて聞こえていた。
ゆっくりと登り、頂上に辿り着いた彼が手に持っていたのは……失われた白馬の片腕の斧、忠義の証。
涙する者が居た。吐息を漏らすモノが居た。叫び出しそうになるモノが居た。それでも、誰も声を発さない。
全ての視線が彼一人に集まり、誰しもが彼が言葉を紡ぐのを待っていた。
ぐるりと一巡見回した彼は、斧を肩に担ぐ。
笑みを浮かべたのは……二人であった。
黒き大徳と、乱世の奸雄。
互いに視線を合わせた後、立ち上がった覇王が場の静寂を打ち破った。
「皆の者、此度の戦、大義であった! 皇帝陛下
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