彼女の為に、彼の為に
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君の幸せが俺の幸せなんだ。願ってくれた君の為に、そして……俺の為に、一緒に幸せを探してくれないか?」
震える身体と共に、あの時の約束が頭に響き、じわりと心の中から抑えられない想いが湧いた。
――私があなたの羽になります。そうすれば多くの幸せを探せますから――
――じゃあ俺はお前の脚になろう。羽を休めている時も、いつだって幸せを探せるように――
二人の記憶にだけある約束を、私は破っていたと漸く気付く。
「大切な思い出を嘘にしてしまわない為に、
寂しい夜を涙で染めない為に、
生きている幸せを謳歌する為に、
そして何よりも……明日も明後日も、ずうっと笑って過ごせるように……君の欲しいモノを教えてくれ」
耐えられるはずなんか、無かった。
この人は、いつも自分勝手に皆の事を想ってる。
変わらない温もりを与えてくれるから、私の望みを零さずにはいられない。
「あ……あぁ……」
この人は記憶が消えても彼のまま。
それなら、私を想ってくれるのも……当たり前の事だった。
じわ……と瞼に熱が灯った。閉じても意味が無いと分かっていても、零さないようにと蓋をした。
そうしたら――――
―――――彼が何も言わずに緩く抱きしめてくれる、それさえ忘れていたなんて。
「……っ……ぅぁっ……」
目を見開くと、頬を熱い雫が一つ二つ。
三つ四つと続いて行けば、喉を込み上げる震えは抑えられない。
「秋斗……さん……」
二度と口に出して呼ばないと決めていた彼の名が、心の殻を引き裂いて“私”を連れ出した。
「秋斗さんが……“好きでした”」
今の彼ではない彼に向けて、届くことの無い想いの欠片をそっと渡す。
「秋斗さんのこと……“愛してました”」
積み重ねた思い出はゼロになってしまったから、過去を想って言葉を零す。
「どうして……? 一緒に、幸せを探そうって……約束、したのに……」
どれだけ求めても彼は此処に居ない。
「敵わないなぁ……って……また、言って欲しいです……」
正直に言葉を並べると、漸く思い出の中の彼が、笑顔を浮かべて私に言ってくれるように思えた。
「寂しい、です……辛い、です……」
抑え付けない本心の叫びが、私の心から溢れ出た。
トン……トン……とあやすように背中を叩いてくれる手が優しすぎて、
「私は……“秋斗さん”に……会いたいですっ」
彼に会いたい気持ちをもう抑え付けずに、叫びを上げた。
ごめんなさいと零しても
優しく受け止めてくれるこの人が居るから……
求めていたモノと同じ温もりが、“彼”と共に生きようとしていいと教えてくれた。
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