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猫の憂鬱
第3章
―2―
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なかっただろう。
科捜研が関わると聞いた時の機嫌が此れに近い。だから皆、言出屁の宗一迄も課長の機嫌を取ったのだ。
「カーズ、カズカズ。」
「課長、今日機嫌良いね。」
床に座った儘笑顔で書類を渡す木島の頭をホルホルと撫で、木島も木島で満更では無さそうである。大きく素早く動く尻尾が見える。
機嫌が最上級の時は木島の事を“カズ”と呼ぶ。判り易いので有難い。木島も判り易い。
木島は獣の臭覚で課長の機嫌を嗅ぎ取り、其れに依って態度を変える。
機嫌が最下級の時にこんな態度を取ってみろ、なんだ其の媚び入った笑顔と逆鱗に触れ、バイクで轢かれるか、シボレーをボコボコにされる。
課長の機嫌が良いのは一課にとって大変有難い話なのだが、愛犬と化する木島が気持ち悪過ぎて仕方がない。余りの気持ち悪さに龍太郎の胃も痛む。
其れを軽蔑の眼差しで見る加納。一体何リットル入るんだよと聞きたくなる馬鹿でかいタンブラーを傾けている。聞いたら一・五リットルだった。中身は勿論、厳選された茶葉で作ったミルクティー(無糖)である。
重くないのか…?
加納馨、紅茶以外の水分は摂取しないのである。しない事にしている。誰がなんと云おうと、珈琲では無い、紅茶である。焼酎ですら紅茶で割る男である。
然し、なんでったって、今日の課長はこんなに機嫌が良いのだろう。なのに、何故小雨が降っているのだろう。
「課長、何かありました?」
「んー?別に何も無いが。」
「そ…う…で、す、か。」
此の後ハリケーンが直撃しないよな?課長に、と井上に聞いた。井上は笑い、ガムを灰皿に捨てた。
井上の机にあるボトルガムを二三個無言で失敬した龍太郎は、大人しくしてろよ、と煙草を消した。
「え、何処行くの。」
「雪村邸。猫の世話して来る。」
流れるように木島を見たのだが、課長の足にしがみつき、行きたくない、と家鴨口を尖らせた。
「行って来い。」
「嫌、行かない!課長と一緒に居るの!」
こんな機嫌の良い課長に今媚びを売らずして何時売るというのだ。倒産覚悟の叩き売りだ。
「…判りましたよ…」
精々主人に媚び売ってな、今の内にな…と胃の痛い思いをせず済んだ龍太郎は心の中で毒付いた。
「あの、本郷さん。」
「はい?」
「ワタクシでは、駄目でしょうか。」
首を傾げ聞く加納に、そうだそうだ御前邪魔だから行って来い、と木島が云った。
忘れていたが…と云うか、今回で知ったのだが、加納は大の猫好きだ。
「良いですけど…」
「はぁあ、やった!」
両拳を握る姿に、加納さんも人間臭いな、と人間なのだから人間臭くて当然だが、そんな感想を持った。
そんな加納に木島は当然、きも…、と吐き捨てた。
御前の方が気持ち悪いよ。
其の顔面、姿、動画で撮影してやろうか。プリントアウトして此処からばら撒いてやろうか
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