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Holly Night
第1章・一年前
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「流石番犬…、はっやいなぁ…」
「此の方に近付かないで頂きたい。」
「何もしてないわな。」
「した。キスして来た。後触った。」
「何で言わはんの!」
「書類、書いて頂いて良いですか?」
「うわぁ、あかぁん。断る!」
三課の課長は息を抜き、ばちん、男にデコピンすると、課長にキスをして帰って云った。
「額が、陥没した…、ほんま痛い…」
「彼奴のデコピン、本当に痛いからな。林檎が凹む。」
「傷害やないか!」
「痴漢よりマシだろ。」
額を押さえ床に蹲る男を蹴り、ゆったりと椅子に座った課長は、デスクに肘を置くと指先で頭を支え、微笑んだ。
「早く帰れよ。」
「うわぁ、出たよ、デヴィルスマイル。むっちゃ嬉しそぉ…」
「俺の機嫌が良い内に帰れよ。」
「白骨の検死、したろ思たのに。」
「いいや要らん。貴様に借りは作らん。」
「いやでもま。」
男は立ち上がると煙草を咥え、ゆったりと煙を吐いた。
「幸せそやないの。」
男が微笑むと課長は指を組み、視線を逸らした。
「早く、出て行け。」
「な、ほら。俺と居ると何時もそんな顔するもの。」
「早く出て行ってくれ。」
歪む課長の表情に男は頭に触れたが振り払われた。
「俺、一回でも、御前を笑顔にした事、あるんかな。」
男の言葉に課長は大きく目を開き、床に向かって視線を漂わせた。男は煙草を消すとドアーに向かった。
「宗。」
廊下の色を、床の色を、二人は見詰めた。其れを通して、過去を見た。
「御前が捨てたんだぞ。」
「……笑かすな。」
男は低く吐き捨てるとドアーから出、入ろうとした木島の足が止まった。
「え?誰…?」
只管床を睨む課長に、木島は言葉が出なかった。


*****


亜由美の持ち物…教科書や筆談少女に文字を教えていたであろうノートを眺めていた本郷は、菅原に呼ばれ、ソファで寝る拓也を指した。其の顔をじっと筆談少女が眺めている。
「貴方にも、問題ありますね。」
「いきなり手厳しい。」
「井上さんの空想世界を助長させてるのは貴方ですよ。」
咥えていた煙草を真っ直ぐに灰皿に突き刺した本郷は菅原の胸倉を白衣ごと掴んだ。
「此れが貴様の権力か。」
「一寸、離して下さいよ…」
「此の白衣が拓也の神領を侵すのか、何時も。」
「本郷さんだって、気付いてらっしゃるんじゃないですか…」
「拓也は此れで良いんだよ!」
強く菅原を突き放し、一回噎せると歪んだタイを直した。拓也の歪んだ世界を治す様に。
「良い訳、無いじゃないですか…!歪みが生じてるんですよ!?」
「そうじゃなきゃ彼奴は生きる事さえ出来ないんだ!」
本郷の声に少女がビクっと身体を揺らし、本郷は慌てて声を落とした。
「拓也だって気付いてるさ、だけどな、そうでもしなきゃ、彼奴は生きる事が
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