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Holly Night
第1章・一年前
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「なあ、課長。一日で良いんだ、家に帰りたい。」
事故を起こして三週間、律儀に署で寝泊まりを繰り返していたが限界だった。
最初の一週間はソファで寝ていたが狭く、床で寝始めた。そしたら今度は床からの冷却と硬さで肩凝りが起き、結果、持病の頭痛が悪化した。
「マジで、頭が痛くて洒落になんねぇんだ。」
「…ふん…」
頭痛が無いなら身体が硬ろうが我慢出来るが、拓也の頭痛持ちは課長も知る、同時に課長も重度の頭痛持ちであるから、其れがどんな苦痛か知っている。
課長は珈琲を一口飲み、二度と事故起こすなよ、と外方向いた。
「あざっす!」
「二日休みな、本郷もだ。」
何も課長、本気で拓也を一ヶ月署に軟禁する気ではなかった。素直に拓也が従い、もうそろそろ帰宅を言う所だった。
「よっしゃぁ…、帰ろう…」
「帰って何するんだ?」
「早くベッドで寝たい…、死ぬ迄寝たい…」
「あ、そっちか。」
「彼奴の事云ってんの?良いよ、俺は寝るんだ。」
三日前拓也の荷物を取りに行った時、同居する女から、拓也は何時帰るの?、と聞かれた。其の時は、さあ、と適当に流し、恨みがましい視線から逃げた。相当怒られるだろうが黙っておいた、其の方が面白いから。
頭痛薬を飲み込む拓也は、じっと見て来る本郷を訝しみ、大きく喉を動かした。
「え?何?」
「いや、何も。」
「一寸、え?何?」
「帰るんだなぁって。」
「帰るよ、え?何で?帰ったらまずいの?」
本郷はニヤリと笑い、立てた人差し指を頭にくっ付けた。
「女は怖いなぁ。良かった、独り身で。」
水を吹き出した拓也は、そういう事か、と今度は自宅に軟禁されるのを悟った。まあ、出る気は無いが。
「お疲れっしたー。」
「お疲れ様です。」
二人は出、見届けた木島は課長に向いた。
「もっと痛め付けたら良かったのに。井上に甘いんだ。」
「御前だったら痛め付けただろうな。」
課長の言葉に木島以外が笑った。


*****


暫く帰って居ないだけで、自宅ってこんな匂いだっただろうかと拓也は思った。廊下の奥にあるリビングは暗く、廊下のスイッチを押したが暗い侭だった。
「は…?」
何度か切り替えたが点かず、切れたんなら変えろよ、と暗い廊下を歩いた。真っ暗なリビング、換気扇の電気だけを点け、冷蔵庫からビールを取り出した。飲み乍ら其の儘寝室に入り、ジャケットごとコートを床に脱ぎ捨てた。
「お帰り。」
「うあ…、びびった…」
時間も時間で、寝ていると完全に決め込んでいた拓也は、暗闇から湧いた声に驚きを見せた。寝ていると思ったから物音立てず、リビングの電気では無く換気扇の頼りない明かりを点けたのだ。
ベルトを外し、ビールを一口飲むとベッドに入り込み、擦り寄って来た女の頭を抱えた。
「家って、こんな匂いだった?」

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