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歪んだ愛
第3章
―3―
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だった立花先生許す、とジンフィズを飲み終えた“ゆりか”は新しくビールを頼んだ。

――顔見たーい、其の偽装旦那の!
――嗚呼あるよ、一寸待って。

あるんだ、用意周到だな、と電話を出す橘の動きを横目で見た。
あれ…iPhoneだ。なんだ持ってるんじゃん。
そう思い、グラスを傾けて居たのだが、口に含んだ筈の液体は喉を通る前にカウンターテーブルに落ちた。

――な…なん…

なんで敢えて“奴”なのか。

――一寸止めてよ!秀一とか!
――宜しやぁん、見せトコ見せトコ。ええ男、見せトコ。
――一寸本当に止めて!

混乱で裏返った声は自分でも驚く程高く、ええじゃないかええじゃないかと電話を遠ざける橘にしがみ付き、電話に向かって手を伸ばした。必然的に電話は“ゆりか”の方に向かい、もーらった!と“ゆりか”は橘の手から電話を抜き去った。

――うお!ホモ臭ぇ!此れはホモですわ!
――何々、我にも見せてよ!

和臣の吐き出したビールを拭いていたマスターは慌てて電話を覗き、盛大に笑った。

――ビーグル犬が似合いそうな顔だな。
――嗚呼、似合うかも。
――ううん、此れはホモですね、間違いなくホモですね。

人生で、此処迄絶望した日は、妹が強姦されたと知った日以来では無いのか。
女装だけなら未だ許そう、男子校学園祭での唯一の楽しい出し物が“女装コンテスト”だったのだから。勿論和臣、毎年強制的に参加させられた側だ。
だから未だ許せる。
が、此れだけは許せない。
何の恨みがあって、秀一と“夫婦扱い”されなければならないのか。
科捜研メンバーで選ぶなら、斎藤さんが良かった…、もっと贅沢云うなら菅原先生が良かった…。
何故に敢えての秀一か。橘に何かしただろうか、考え、若しやあの音声分析を恨まれたのか。
一刻も早く立ち去りたい。
其の思いが通じたのか、“ゆりか”の電話に父親から着信が着た。
“ゆりか”は云わなかったが、表情で父親だと判った。ビール瓶を荒く傾けた“ゆりか”は椅子から飛び降り、又来るわ、と鳴り続ける電話を保留にした。

――ラインしてる?
――してる。
――交換しない?私、すっごい二人が気に入っちゃったんだ。あ、取らないよ?大丈夫。此れ、私のアカウントだから、気が向いたらメッセージ頂戴。うるせぇな、今出るよ…。じゃあね、今日は有難う、楽しかった!

“ゆりか”は笑顔で、自分のアカウントを書いた紙を橘に渡し、店から出た。
一気に疲れ、脱力した。

――お疲れ、木島さん。…ミユキちゃん?

マスターの艶かしい真紅の唇が動く。

――日本酒出せ、一杯飲んで帰る。そして橘さん。
――はい…?
――何で秀一だ!もっと他に居るだろう!斎藤さんとか斎藤さんとか、後斎藤さんとか!
――…
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