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歪んだ愛
第3章
―3―
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の入るグラスを傾ける“ゆりか”は、橘にニコニコと向けて居た顔を硬め、メール受信した電話を一瞥するとそう吐き捨てた。

――彼女?
――違う違う、父親だよ。珍しく早く帰ったんだな。帰って私が居ないと、御前ストーカーかよ、って位連絡寄越す。
――うわ、手厳しぃ。
――前迄はさ、双子の姉に身代わり頼んでたんだけど、最近結婚しちゃってさー。
――嗚呼ね。で、暇で寂しいパパはもう一人の娘を監視してる、と。
――其れー。普段家に居ない癖に煩ぇんだよ。今迄散々放置しといて、盲愛の対象が無くなると俺かよ…、うぜぇんだよ…

豹変した“ゆりか”の口調と目付きに、和臣は黙ってグラスを傾け、橘も視線を何処かに飛ばした侭、あの物悲しい顔でビールを飲んだ。マスターが一人、美人見て酔いが回ったか?崩れるの早いよ、と茶化した。

――あ、御免。普段の一人称“俺”なんだ。
――見た目と間逆。お嬢さんお嬢さんしてるけど、実際かなり口悪い。
――あ、でも、女の子相手にはちゃんと話すよ!?ふわんとした感じで話すよ!?男が絡むとね…、御免。
――良いんじゃない?ミユキだって、男から話し掛けられたら、刺す気なんかな?て思うもん。ハラハラする。
――刺さないもん…
――いいえ、貴女は刺しますよ。
――あ、喋った!?

蹴るだけ、と小声で、口だけ動かしている風に和臣は云った。

――ミユキ、こんなじゃん?ストーカーとか、結構ある訳。職場の男性教諭から言い寄られた時とか傑作だったよ。ヒステリー起こして、煩い煩い煩い!男なんか大嫌い!御前はもっと嫌い!此のハゲ!蛍光灯が眩しいんだよ!て、デスクに教科書バンバン叩き付けて喚いたんよ。傑作やったぁ…

うっかり喋った事を後悔し、外方を向いたのだが、“ゆりか”には、其の場を再現する様に腕を振り下ろす橘に腹立ち、醜態に外方向いたと捉えられ、無言でも問題なかった。

――うち吃驚して、いや、職員室が、しん…てしたんよ。うち、保健医なんよな、偶々職員室入ったらミユキの絶叫が聞こえて、あんた一寸落ち着きなさいよ、言うたら、私はタチバナ先生が好きなの!男に興味は無いの!勘違いのハゲなんて言語道断なの!て…。あ、うち、タチバナて言うんよ。先生達も唖然としたけど、生徒も唖然とした、一番唖然としたのはうちです…。いや、あんな、其れ迄ずっとうち…と云うか、生徒の間で、数学の先生と出来てるて噂やったんよ。席もずっと横やし、ずっと話してるし、然も笑顔!唯一話してる男やったから、嗚呼出来てんねやな、て。生徒からも、先生達出来てるんだよね?て聞かれてもミユキ笑ろて誤魔化してたし、先生も“そう見えるんだー、いやぁ嬉しいね、あんな美人と恋人同士に見られるなんて、男冥利に尽きるよ、有難う”“彼女が僕を如何思ってるかは知らないけど、僕は大好きだよ”
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