第3章
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収されたぞ。十万で。」
「課長…」
「ばれなきゃ良い。大丈夫。」
しっかり録音しとけよ、と大きな手を振り、課長は違法行為等屁の河童でエレベーターに乗り込んだ。
課長が出世しない理由、良く判ったかも知れない。
競り上がる胸、締め上げられたコルセットから今にも溢れそうで、肉まんみたい、そう和臣は思った。
カウンターを拭くと女は、何でこんな捜査してんの?と聞いて来た。カウンター席に座り、咥えた煙草に女はライターを差し出した。
「殺人幇助の容疑が掛かってるんだよ。」
煙を吐き出し、置かれたノンアルコールビールのグラスに口を付けた。
「は?」
床を掃く女は素っ頓狂な声を出し、看板を店の外に出した。
「へえ。誰殺したの。」
「妹。」
「へえ!」
そら凄い、とカウンターを矢鱈長い爪を持つ指先で撫でた。
「所で此の店って…」
「嗚呼そう、バアンバーだよ。女しか来ない。」
「詰まり来る女って…」
「そ。女が女を求める場所だよ。」
唆るだろう?と、への字に釣り上がる眉を片方上げ、肉厚な真紅の唇を歪めた。
「御前もそうなのか?」
「ばっちりがっつりゲイだね。ペニスに興味も用も無いな。」
女は笑い、アメリカのポップシンガーの歌を流した。口ずさみ乍ら電話を弄る。
「あ、九時位に来るって。」
「有難う。」
其れ以降会話は無い。
開店の八時過ぎ、煙草を咥えた侭女の集団が矢鱈陽気に入店し、後ろのソファ席に座った。べちゃべちゃとお喋りの口は止まらず、晩早好、と女が焼酎のキープボトルと一式をテーブルに置いた。
「ねね、ミレイ、今年のハロウィン如何すんの?」
乾杯、と女達は派手にグラスをぶつけ合い、スナック菓子を籠に詰める女に聞いた。
「今年はマレフィセントするよ。」
「え?仮装になってなくない?」
「誰が魔女って?」
スナック菓子の入る籠を天井に向ける女に、嘘だから、とコルセットで人工的に細く作られた腰に腕を回し、競り上がる胸に顔を埋めた。
マレフィセント…、そうか、マレフィセントにそっくりなんだ。
最初見た時何かに似てるなと思って居たが、疑問が解けた。
グラスを空にし、煙草に火を点けた。
「煩いだろう。」
空のグラスに新しくビールを注ぎ入れる女だが、十時過ぎはこんなもんじゃないから、と恐ろしい事を云った。
女達が来て五分も経っていないが、正直帰りたい。
一人、又一人女が増え、ソファ席が埋まるに連れ、女特有の中身の無い無駄話と馬鹿騒ぎに頭が痛くなって来た。
女子校に勤務する男性教諭の心労が今はっきりと判った。
動物園の猿山に放り込まれた気分だった。
「帰りたい…」
今直ぐこんな猿山から脱出し、雪子の居るしっとりとしたあの空間に行きたいと切に思った。
三本目のビールを空にし、溜息を吐いた時、一層陽気な声がドア
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