第2章
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彼が何を云ってるのか判りません…日本語ですか…?と、涙目になる。中国語や韓国語の方が未だ理解出来る、と加納は云う。
世谷署一傑作な取り調べがある。
二ヶ月前、加納が配属され少し経った頃其の“事件”は起きた。事件自体は窃盗だったのだが、取り調べが“事件其のもの”になった。
余りにも犯人の言葉が判らず、本気でコリアンだと思った加納は韓国語で返したのだが、実は此れジャパニーズで、反日反日!と犯人が喚き出した。
其れだけは聞き取れた。
横に居た和臣も、中国語であれば先ず理解出来る、其れが出来なかったので、語調から韓国かと思って居ただけに驚愕した。
ぽかーんと加納は犯人を眺め、首を傾げると和臣を見たが、和臣でさえも日本人じゃないと思う程の言葉、井上に変わって貰っても、御宅、何処で日本語覚えたの?と聞き、本郷にも理解出来ない。其の時、一課に居た全員に犯人と向き合わせたが、誰一人として言葉を理解出来なかった。
そして此の犯人の言葉を理解出来たのが、少年課の刑事だった。すると不思議な事に、少年課の刑事は全員、此の犯人の言葉を日本語と認識し、理解出来たのだ。
初めてだった、同じ日本人、同じ日本語で通訳を用いったのは。
何故理解出来たのか聞くと、中学生とかもっと酷いよ、と教えられた。
なので後日暇な時、ちょろっと少年課の取り調べを見学させて貰ったのだが、まあ酷い。義務教育位受けてるだろう?幼稚園で何を習ったんだ、と劣悪な知識と言葉使い、態度に聞きたかった。
呆然とする一課刑事に少年課刑事はゲラゲラ笑い、中学生で此処の世話になる奴がまともな親、まともな教育受けてる訳ねぇじゃん、と世の中の仕組みを教えて呉れた。引き取りに来る親もまあ見事なもので、金髪少年を、ジャージ健康サンダル咥え煙草の父親が、矢鱈ゴテゴテした軽自動車に殴り乍ら罵倒し、乗せた情景を見た時は、日本終わったな、と痛感した。帰りドンキ行くぜ絶対、と後ろから云われた時は一課全員で笑い倒した。
抱腹絶倒とは正に此の事で、一課は世の中の劣化を笑い、少年課刑事の笑いは一課に向けられた嘲笑である。
「ふ、ふふ…」
聞いた雪子はグラスを回し乍ら肩を揺らした。
午後七時半、バー“ミッドナイト キャット”に足を運んだ和臣は、課長達が来る八時迄暇なので時勢の劣化の話を雪子に聞かせた。
カラン。
ドアーに垂れるカウベルが心地良い音を出し、もう来たのか、と視線を流した。然し其処に居たのは仲間では無く、月光を彷彿させるプラチナブロンドを、正に月の道筋の様に腰迄伸ばす男だった。
「ユキコー、オハヨー、今日もお互いガンバローね。」
「お早うヘンリー、頑張ろうね。」
少年の様な溌剌とした笑顔、成人で此処迄見事なブロンドを保っているのが珍しく、和臣は惚けた。
「一瞬女かと思った…」
「よねぇ、私も女だと思った
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