第2章
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「最近、御前の声が中尾隆聖で再生される。」
「全然似てませんけど。」
電子煙草を咥えた和臣は加納の肩を叩き、発車を促した。
*****
東条まどかの全体像は見えて来た。だが未だ情報が足りない。夏樹の情報が早く欲しいと時一は切に思った。
東条まどかが男っぽい性格をして居たのは、病弱なゆりかを守る為。そして、そんなゆりかを心配する母親に「活発である」と証明する事で安心させる為。
同時に、何時も母親に心配されるゆりかを羨望して居た。
誰よりも母親を頼りたかったのは、まどかだった。本来ならゆりかに似た様な性格だったのに、無理矢理に性格を変えた。其れが何時しか本物になり、活発である自分に疑問を抱かなくなった。心の何処かでそんな自分を嫌い、又拒絶し、然し、活発である自分を母親が求めた。
だからまどかは、ゆりかと正反対でならなければなかった。
正反対、対局……部屋の家具配置が其の意識を教えている。
同じ物…詰まりDNA、同じ家具を買い、対局に置く。
出来ればもっと早く、まどかに会いたかった。屍体等では無く、生きたまどかに。そして、其の心の声を聞きたい。
「ゆりかさんに、なりたかったんだよな。いや、ゆりかさんに、戻りたかった。でも結局、戻れなかったね。」
母親よりももっと、ゆりかと正反対の自分を求めた人物――夏樹冬馬の為。
此の二十六年、一度としてまどかは、まどかで居た事があったのだろうか。
そう思うと、時一の視界は霞むばかりだった。
初期設定の侭の着信音、一々設定を変える等時一はしない。
「如何しました?珠子さん。」
柔らかい声と正反対の無表情な顔が、鏡に映る。そんな自分の姿を眺め乍ら、勝手に動く口が別の生き物の様に見えた。
「来週は一度家に帰ります、はい、恵御は元気ですか?あはは、声聞こえてます。」
何て能面じみた顔だろうか。声は笑って居るのに、何故顔は笑って居ないのだろう。
誰か俺を、見付けて呉れ――。
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