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歪んだ愛
第2章
―5―
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臣の欲望を燃え上がらせた。荒がる息を飲み込む様に雪子の薄い唇は和臣の唇に触れ、流動する腰の筋肉に細い指が触れた。
「如何しよう、和臣さん…、本気になりそう…」
「俺だって思って同じだよ…」
もっと、奥に来て…、そうして貴方を感じさせて……。
鼓膜に繰り返される掠れた吐息とソプラノに、時間の感覚が失せた。
「頼むから、俺を本気にさせないで、雪子……」
「同じ事云いたいわ…」
娼婦紛いの女に夢を見させないでと、雪子のソプラノが鼓膜に響いた。
「会って半日其処いらで云う言葉じゃないのも、ベッドの中での戯言だと思って貰っても構わない…」
涙の滲む雪子の瞳に、和臣の胸は締め付けられた。
愛してると囁かれた雪子の本能は強く和臣の欲望を飲み込んだ。


*****


病院と云うのは不思議なもので、家族全員が同じ所に掛かっている場合が多い。同じ土地にずっと住んで居るなら尚更其の傾向は強く、東条家も其の型に当て嵌まり、まどかとゆりかのカルテは直ぐに集まった。特に内科は赤ん坊の頃から二人を知る老医師と看護師迄居た。そして“若先生”と呼ばれる老医師の息子も二人を良く知って居た。
「ゆりかちゃんは喘息持ちだったんだよ。」
「ゆりかちゃんの方が出生体重が軽かった記憶がある。」
菅原とそう年が変わらない若先生は、カルテの一番最初を開いた。
若先生で此の年なら大先生は一体幾つなのだろうか。七十前?いやもっとか?
しっかりした頭を匂わせる視線は、瞼に沈むが中々に色気があった。
こういう年寄りになりたいな、と和臣は思う。
「嗚呼、そうそう。ゆりかちゃんの方がまどかちゃんに比べて一回り小さかった。だから私、最初まどかちゃんが姉でゆりかちゃんが妹だと思ったんだよ。で、お腹に居る時から性格は同じなんだなぁって。」
和臣の疑問持つ表情に大先生は、嗚呼、と声を上げた。
「いやね、まどかちゃん、あんま云いたくないんだけど…」
「一寸素行に問題があってね…」
「いやいや待て、そう云うと語弊があるな。…活発過ぎる。うん、そう、活発過ぎる。」
「内の身長測定器と体重計、三つ壊した…」
二人の医者は暗い顔で溜息を吐き、同時に額を掻いた。
「身長測定器にはぶら下がって、体重計は目盛りが動くのが面白いってんで飛んで、馬鹿になった。」
「怒ってもケロっとして笑ってるんだよ。」
「其れで泣くのがゆりかちゃんだった。あー、懐かしいな。」
後ろで聞いて居た看護師は覚えているのかケラケラ笑い出した。
「大先生、怒ると物凄く怖いのよ。まどかー!って診察室から怒鳴ると、患者さんがビクゥって。で、先生打ったーって。其れ以上頭打つな、其れ以上馬鹿になったら幾つ測定器があっても足りゃしないって、あはは、おかしー。」
「信じられんだろうが、此れが中学迄続いた。」

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