第2章
―1―
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
菅原に呼び出し受けた和臣は、一人で科学捜査班のある警視庁の八階に向かった。
一見すると病院を思わせる廊下、床に自分が映る。
科学捜査研究所、と打たれたドアーを和臣は叩き、静かに開けた。此処で一番多いのはパソコンだろう、視界の彼方此方で散らつく。
「申し訳御座いませんでした、菅原先生!」
聞き慣れた声が和臣の耳に入るが姿は無い。視界に入る一面に人影は無く、あるのは専らパソコンだけ。
「せやから、わいがね…?先生ぇ…」
「御許し下さいませ、菅原先生様!」
声だけで、本気で謝ってないのが判る。
辺りを見渡す和臣は、強化硝子で仕切られる休憩室に目を向けた。菅原の顔だけが見え、其の視線は床に向き、表情は鬼に近い。
入り口に立つ黒髪がふっと振り向き、全く何がそんなに悲しいのか、物理担当と目が合った。気付いた男は休憩室から出、和臣に寄る。
長い髪から、花の甘い匂いがした。真っ白で、細い身体、背は和臣より低い。顔も身体付きも女に見え、男と云うのは自分の勘違いなのでは無いかと疑い始めた。名乗られても居ないし、性別も聞いて居ない、唯、一人称が“俺”だったに過ぎない。
矢張り、女なのでは無いか?
其れであれば此の物理担当、かなり和臣の好みのタイプだ。
色白で自分より華奢、縋り付く様な憂い帯びた目元、薄い唇の横でちくはぐな色気を出す黒子…。唆られた。
然し白衣のポケットで揺れるネームプレートにはしっかりと男性名が記され、落胆するしかなかった。
「何か。」
上目で、今にも泣きそうな声で聞いた。
「菅原さんに呼ばれたんですが。」
「嗚呼。でも、少しお待ち頂けますか?」
和臣の頷きに男は菅原の元に行き、耳元で囁くと、釣り上がっていた菅原の目が本来の垂れた形状に戻った。
同じ垂れ目なのに何が違うんだろう。
思っていると、無邪気な笑顔で腕を振られた。鬼の形相で怒っていたんじゃないのかと聞きたいが、切り替えが早い…頭の良い人間だと理解出来る。
部屋から出ようとする菅原、其れに秀一と文書担当の、あの丸眼鏡男が足にしがみ付いた。
「離しなや。」
「いいえ離しません、許される迄しがみ付いてます!」
「ほんま悪いと思てるんですよ。」
足にしがみ付いた侭二人は土下座し、其れが一層菅原の苛立ちを助長させる。
「あー…何かのプレイ?」
「少ぉし待ってんか。」
縋り付く二人の肩を足で突き放し、許せ許さぬを繰り返した。内容は簡単で、菅原愛用の珈琲茶碗が破損した。珈琲を頼まれたのが秀一、運ぶ途中後方を確認せず振り向いた丸眼鏡の腕が当たり、反動でカップは落ちた。そうしたら如何した、責任の擦り付け合いが始まった。注意して振り向け、しっかり持ってろ、そんな言い争いを聞いた菅原はうんざりし、割れた物は仕方無いし、何方に怪我も無いので穏便に事を済ませ様としたのだが二
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ