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歪んだ愛
第1章
―4―
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しそうな本郷の腕を摩った。
「木島さん…」
「大丈夫、な。」
不安を能面一杯に浮かせる加納に和臣は笑ってみせた。官僚気質で決して人に心を許さない加納だが、こう見ると、何処にでも居る二十五歳の青年。
和臣の笑顔に加納は下唇を噛み締め、行きます、そう云った。
「無理するな、本郷の胃なんて、蜂の巣になれば良いんだから。」
「拓也、痛い…」
「大丈夫だぜ龍太、後で呪い掲示板に木島さんの名前書いとくから、又。」
「いえ、大丈夫です…、参りましょう。」
大きく鼻から息を吸い、抜き出した加納は真っ直ぐ和臣の目を見、資料を掴んだ。
「行って参ります。」
肩迄伸びる髪が靡き、其れを見た和臣は背中に続いた。
加納の決意を閉じ込める様に扉は閉まった。
「痛い、胃が痛いんだ、拓也…」
和臣達の居なくなったフロアーに本郷の声が響き、長ソファに身を委ねるとしくしくと泣き出した。
「又潰瘍が肥大した…、穴が、穴が又開く…」
「課長さぁ、木島のパワハラ如何にかしてくんねぇ?」
「無理だな。」
あっさり云い、椅子から離れた課長は向かいのソファに座り、胃痛に悶える本郷と其れを労わる井上に笑みを向けた。
「木島のパワハラとモラハラは俺が教えたんだ。」
和臣最初のコンビ相手は何を隠そう此の課長で、今更如何にもならないと笑顔を見せる。
「失礼。」
柔らかい物腰、ガチャリとドアーが開き、顔を向けると捜査三課の刑事が立っていた。
「よう。」
「そうやって貴方は、又サボってらっしゃる。」
クスクスと笑う刑事は課長に近付き、さらりと三つ編みを撫でた。
「其の笑顔、又木島を苛めましたね?」
彼は課長の横に座り、然し向かいのソファで悶絶する本郷を見て、違う、と眉を上げた。
「…嗚呼、三課の課長さんか。」
此の刑事、元は此の捜査一課だったが、盗難への知識を買われ三課に移動した課長の元相方だ。
交番勤務を経て入署した彼を約二十年間課長は面倒見る。移動したのは十年と前だが、彼の課長に対する忠誠心と憧憬は褪せない。署長迄も、此の二人のコンビネーションには一目置いて居た。
「何しに来た?ん?」
「貴方に会いに来たんですよ。」
「朝会っただろ…?ん?」
顎を撫でられた彼はゆっくりと課長に顔を向け、其の侭ノーズキッスをした。
元相方。
いいや、ingでパートナーだろう。課長のこんなゆったりとした笑みは中々お目に掛かれるもので無い。
「…はいはい、見てませんよ。」
本郷の目元と自分の目元を隠す井上は顔を逸らし、熱いぜ、と自分の事の様に破顔し、肉厚な唇を動かした。
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