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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
追憶  〜 帝国歴487年(二) 〜
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シュタインホフ元帥が問うとリヒテンラーデ侯が軽く笑い声を上げた。
「ヴァレンシュタインを評した言葉よ。あの男の副官が言ったと聞いた。そうであったな、軍務尚書」
「はい」
シュタインホフ元帥が“ビロードに包まれた鋼鉄の手”と呟いた。言い得て妙だと思う。普段穏やかな若者だが事においては果断、冷徹になれる男だ。

「シュタインホフ統帥本部総長はミューゼル大将が尋常ならざる野心を持っている、そう考えているのかな?」
「はい」
「簒奪か」
「その懼れ無しとは言えますまい」
国務尚書とシュタインホフ元帥がじっと見詰め合った。

「確かにその懼れは有る。あの男の陛下を見る目には憎悪が有る。陛下の御厚情により出世したにも拘らず姉が後宮に入れられたのが気に入らぬらしい。ふざけた男よ! それほどまでに気に入らぬのなら陛下の御厚情を受けねば良かろうに。敢えて気に入らぬ相手からの厚情を受ける。その真意は碌なものでは有るまい」
吐き捨てるような口調だ。リヒテンラーデ侯のミューゼル大将への感情が見えた様な気がした。

「ではヴァレンシュタイン少将は?」
「フム、陛下に対する敵意は無いな。どちらかと言えば好意に近いものが有ると私は見ている。如何かな、軍務尚書」
「私もそのように思います。陛下に対する敵意は見えません」
「ミューゼルが簒奪を望んでも同意しないのではないかな」
今度はシュタインホフ元帥が“フム”と頷いた。

「他にも違うところは有る。ミューゼルは野心の塊、己の利にならぬ事では動かぬ。逆に言えば己の利になると見れば必ず動く。だがヴァレンシュタイン、あれは違う」
「違いますか?」
「違うな、利では動かぬところが有る。そういう意味では可愛げが有る男じゃ」
「……」
私とシュタインホフ元帥が黙っていると侯が笑い声を上げた。

「面白かろう、何を与えれば動くのか、楽しませてくれるからの」
「……」
「陛下御不例時には内乱になれば大勢の人間が死ぬ。それを避けるために動いた。他にも試したが意外と情に脆いところが有る。あれは己の野心のために人を殺す事は出来まい。人を殺すより人を助けたがる男だ。根本的な所でミューゼルとは合わぬ、簒奪には乗らぬだろうというのもそこにある」
確かにそういうところは有る、サイオキシン麻薬の一件でも我らに求めたのは一年間の俸給の返上だった。それを中毒患者の治療費に充てる事を望んだ。

「では閣下はヴァレンシュタイン少将について心配は無いと御考えなのですな」
「そうだ、シュタインホフ統帥本部総長は不安かな?」
「いえ、小官もミューゼル大将とは違う、あの二人は決裂しただろうと見ています」
「……」
「ですが小官は少将とそれほど親しくありません。ですのでここで御両所に確認させていただきました」
シュタ
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