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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
追憶  〜 帝国歴487年(二) 〜
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という事か。立場を強めるとなるとポストも考慮する必要がある。兵站統括部ではいささか軽過ぎるな。

「国務尚書閣下、閣下はヴァレンシュタイン少将をどのように見ているのです。その、言い辛い事では有りますが彼を危険だと思われた事は有りませんか」
考えているとシュタインホフ元帥の声が聞こえた。シュタインホフ元帥がリヒテンラーデ侯に問い掛けている。侯は目を細めてシュタインホフ元帥を見た。

「シュタインホフ元帥、卿は例の一件をまだ引き摺っているのかな?」
私が問うとシュタインホフ元帥が首を横に振った。
「そうではない。それは私個人の不快、そうでは無く帝国にとってあの若者が危険と思った事の有無を訊ねている。閣下はミューゼル大将を危険だと考えておられる、ならばヴァレンシュタイン少将については如何御考えか」
「……」
リヒテンラーデ侯は無言だ。それを見てシュタインホフ元帥が言葉を続けた。

「不思議では有りませんか。ミューゼル大将とヴァレンシュタイン少将、あの二人は若くして高い地位に就きました。ミューゼル大将には伯爵夫人の後ろ盾が有りましたがヴァレンシュタイン少将にはそのような物は無かった、実力のみで昇進しました。普通こういう場合実力だけで昇進した者はそうでない者に対して反発するものです。だがヴァレンシュタイン少将にはそれが無かった」
「……」

「それどころか好意的だった、何かと便宜を図りミューゼル大将を押し上げようとしていた。何故だろうと思いました。最初は出世のためにミューゼル大将に近付いたのかと思いましたがあの男には出世欲が無かった、いや私には見えなかった。では何故野心家のミューゼル大将に近付くのか、野心の無い人間が野心家に近付くとはどういう事なのか……」
「……」
シュタインホフ元帥が私をじっと見た。

「卿は考えた事は無いか、軍務尚書」
「……」
「国務尚書閣下、如何思われます」
「……」
「その辺りの見極めがつかねば昇進させ地位を与える事は危険な事になりかねません」
部屋に重苦しい空気が満ちた。

「いささか考え過ぎではないか、シュタインホフ元帥。確かにあの二人、以前は親密だった。だが今回の一件でヴァレンシュタイン少将は無条件にミューゼル大将を信任しているわけではない事は明白だ。むしろあの二人は決裂したと私は見る」
「どういう事かな、軍務尚書」
リヒテンラーデ侯が訝しげな表情をしたので指揮権の一件を説明した。侯は何度も頷いた。

「なるほどな、やはり決裂したか」
「と言いますと」
「あの二人が親しいのは知っていたがどうにも肌合いが違い過ぎる。上手く行くのが不思議だった……。それにしても怖い男だ、ビロードに包まれた鋼鉄の手か」
リヒテンラーデ侯が大きく息を吐いた。

「国務尚書閣下、その言葉は」

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