暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第110話 おでん……温めますか?
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たかのように緩く湯気を上げていた。
 何故かこの部分だけは平和な日常の一場面。

 その弁当の無事な姿を瞳に捉え、そして変わらぬ香気と湯気に一瞬、当たり前の日常に支配され掛ける俺。ただ、俺は俺の昼食を守り切り、ハルヒの奇襲は無残にも失敗したかに見えたのだから、これは仕方のない事。

 しかし、次の瞬間!
 完全に攻撃を防がれたはずのハルヒの口角に浮かぶ笑みを見つける俺。

 そして!
 払ったはずの彼女の右手に箸はない。間違いない、これはフェイント!

 刹那、俺の視界が白に彩られた! 

 繰り出される左。強い精霊光を纏いし左腕。間違いない、今の彼女は意識的にか、それとも無意識にか、……は判らないが、間違いなく精霊を従える事が出来る! 先ほどの右が一だと仮定すると新たに繰り出された左の威力は四以上。並みの相手なら為す術もなくメインディッシュのハンバーグが奪われて終わり。……と言う悲劇的結末が待って居たであろう。
 正に左を制する者は世界を制する、の言葉通りの展開!

 但し、残念ながら俺も並みではない!

 その時、世界から色が消えた。そして音すらも妙に間延びした……水の中に潜った時に聞こえて来る、くぐもった音のように聞こえ始める。
 すべての音と言う音がテープをゆっくりと回した時のように聞こえ始め、そして、俺を覆い尽くしている大気から感じている圧力の質さえ変わった。

 ――時空結界。世界がスローモーションの中で進行し始めたのだ。
 今まさにハルヒの突き出して来た箸が、デミグラスソースのたっぷりと掛かったハンバーグを捉えようとした正にその刹那! 空を切る彼女の箸。
 そう。その瞬間、僅かに腰をずらし、更に同時に座って居たパイプ椅子を生来の能力で後ろに引く。この事により身体全体を下に移動。背中にパイプ椅子の座る部分が。そして、首にパイプ椅子の腰に当たる背もたれの部分を感じる辺りまで身体全体を下げたのだ。
 もしこの瞬間に今の俺の姿を横から見たとしたのなら、現在の体勢が非常に安定の悪い形だと言うのが判るであろう。左脚は完全に伸ばし、右脚は曲げ、パイプ椅子に掛かる体重を僅かに抑える事によって背中から床に落ちるのを防いでいるように見えるはずですから。
 しかし、現実には微妙に身体に掛かる重力を制御する事により、この不安定な状態……。感覚としては床に平行するような形で天井を見上げる体勢であろうとも、俺は維持する事が可能なのですが。

 完全にハンバーグを捉えたと思った瞬間、空を切らされた箸を見つめ驚いた表情を浮かべるハルヒ。その表情を彼女の顔の下三十センチの位置で確認し勝者の笑みを浮かべる俺。
 繰り出された左腕は精霊の輝きを尾のように引きながら、天井と俺の間の空間を切り裂いて行く。
 そう。すべては一秒を
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