第6章 流されて異界
第110話 おでん……温めますか?
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たのだから。
☆★☆★☆
「何、その粗末な昼食は?」
有希にレジ袋から取り出した、良く見慣れたプラスチック製の容器を手渡す俺。この世界に帰って来て、この文芸部の部室に連れて来られる度に陣取る居場所――何時も通りの入り口を背にしたパイプ椅子に腰かける俺と、その右隣に置物の如き精確さで座る彼女。その手渡された容器からは冬の日に相応しい、シベリア産の大気とは明らかに違う湯気と、それに相応しい香気を周囲へと発散させている。
そう、非常に見慣れた、そして温かい容器。それは……。
「見て分からんのかいな。これがコンビニ弁当と言うヤツやな」
良かったなハルヒ。これでひとつ賢くなったぞ。
本当に素っ気ない答えを返す俺。もうこの辺りに関しては阿吽の呼吸と言うヤツ。テキトーに相手をして置かなければ不機嫌に成るし、そうかと言って構い過ぎるのも何か変。
ちゃちいプラスチック製の蓋を開くと、其処から幸せを感じさせる温かな湯気と、食欲をそそる香気が更に強くなる。
尚、後で話があると言った切り、有希からの【念話】は一切なし。【念話】のチャンネルも閉じられたまま開かれる事もなく……。更に、万結の方とも同じ状況。
この状況から考えられるのは二人で連絡を取り合って居る可能性が大だと言う事。確かに、有希と万結は今年の二月以降同じ師に付いて仙術を学んでいる姉妹弟子同士なのだから、俺よりも付き合った時間で言うのなら長いのかも知れませんが……。
それにしたって、二人で相談するよりは俺も交えて相談した方が良い知恵が浮かぶ可能性も高いと思うのですが。
三人寄れば文殊の知恵とも言いますし……。
「そんな事はいちいち聞かなくっても分かっているわよ」
少しイジケタ感じの思考の迷路を進む俺。そんな俺に対して、怒ったような台詞を口にしながら、自らの弁当はフタも開けられず団長専用の席に残し立ち上がると、ゆっくりと……まるで幽鬼の如き雰囲気でこちらに向かって歩み寄って来るハルヒ。
そして、彼女の右手には何故か……。
そんな少し意味不明の行動を始める彼女に対して、こちらも我知らず笑みで応える俺。
そう。確かにそんな彼女の答えなど、イチイチ言葉にされずとも判って居る心算。そして、もっと重要なのは今この時、別の事も更に強く判って居ると言う事。
刹那!
「させるか!」
ゆっくりと……。何の気負いも衒いも感じさせない自然な形で俺の背後に立つハルヒ。その姿はノーガードでリングに立つ某ボクシング漫画の主人公の如し。
一瞬の閃き。幻の如く繰り出されて来る右を、振り向き様、左腕で下から弾き上げる俺。
そして――
そして、右手の手の平の上には開かれたハンバーグ弁当が、直前の交錯などなかっ
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