§37 古き魔王の狂信者
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彼はこんなものではなかった。傘でこの敵達を粉砕し、無人の野の如く駆け抜ける姿は依然として恵那の脳裏から離れない。自分はまだ、遠い。
「もっと、もっと先へ――!!」
「邪魔をするな小娘!」
怒声と共に上空から飛来する巨大な物体を水平に跳ぶ、と器用な芸当で回避する。
「今度は何!?」
前に聳える巨大な物体が尻尾である、と理解したころには恵那の身体は宙を舞う。
「くっ……!!」
咄嗟に刀で受け流したにも関わらず、飛ばされた彼女は三回程バウンドした。人知を越えた圧倒的な力。神獣を下し、神殺しとも戦える程のデタラメさ。
「くっ!」
神懸かりを視野に入れる。天叢雲が無いことに若干の寂しさを感じつつ、神の力をその身に取り込もうとして――
「おっと。悪いがそれをさせる訳にはいかないんだ」
背後からの蹴りが行為を中断させ、神懸かりの隙を与えない。
「誰!?」
恵那がここまでの奇襲を許す相手は多くない。
「やぁ、久しぶりだね。姐さん。今日は怖い人もいないようだし派手にやろうか」
「うわー。これはちょっとツラいかなぁ」
悠長な口振りとは別に、表情は硬い。冷や汗が頬を伝う。麒麟児、陸鷹化。黎斗に腕を奪われ隻腕になったとはいえ油断できるわけがない。手負いの獣程恐ろしい。万全状態ならいざ知らず、少なくとも今の恵那では苦戦は免れない。
「よそ見とは余裕だな!」
「しまっ――」
陸鷹化に注意をさきすぎた。この場でもっとも気を配るべきは、巨体と化した神祖だったのに。
「うあっ!」
「腕は立つがこの程度か。所詮冥王と競った私の敵ではなかったな」
余裕を感じさせるアーシェラの声を聞きながら、なすすべなく壁に叩きつけられ、肺の中がごっそり抜ける。意識が遠退いていく。
「うぅ……」
――力を、あげる。死なない為に――
黎斗の声が脳裏に響く。思考が塗りつぶされていく。全てを破壊しよう。破壊するの破壊しなきゃはかいさせてはかいさせてよはかいハカイハカイハカイ……!!
「あぁあアァアアア――!!」
黎斗の権能”葡萄の誘惑”は精神に干渉する。それは対象への精神攻撃・精神操作だけにとどまらない。精神に干渉することで、肉体に対して無意識下で行われている制限を解放、超絶的な身体能力を対象に付与させる。精神を通して対象の呪力をも操り、身体強化を最適な形で行使する。
「なんだこの力は!! 子娘如きが小癪な……!!」
ディオニュソスの信者は動物を八つ裂きにする程の力を得るという。すなわちこの権能は対象の精神に干渉し隔絶した戦闘能力を信者に与える、加護の側面も併せ持つ。これこそ
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