1話
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「ここが麻帆良か」
駅のホームを出て、広いロータリーに立ち、その景観に思わず声が漏れる。広々とした路地に、煉瓦を敷き詰めたのであろう歩道。左右にそびえる建築物も、日本の様式ではない。まるで、ヨーロッパに戻ったような――正確に言えば、観光地にいったような――気がしてくる。
ここまでそれっぽく作った事の意義はともかくとして、馴染みやすくはあった。
光景に圧倒されたのはセイバーも同じらしく、ほう、と吐息が漏れる。
「なるほど、都市一つを学園に、ですか。どのようなものかと思いましたが……まさか都市一つを、学園を建造するためにまるごと改装してしまうとは。ずいぶんと思い切ったことをするものです」
「確か、神木・蟠桃だったか? あれを隠すために、色々いじる必要があったんだろうけどな。俺もここまでとは思わなかったよ」
言いながら、視線をふと横に動かした。麻帆良の建築物は、全体的にあまり高くない。と言っても、特別低いわけでもないのだ。それらが、遙か見下ろされる高さと太さを誇る、巨大な樹木。その圧倒的な存在感は、確かに麻帆良の目玉だろう。本来ならば、だが。
蟠桃こそが、麻帆良の地をどこかの魔術結社が管理しなければならない理由だった。科学で解明しきれない、木の異常な成長。それだけとっても、裏の世界が隠し立てするのに十分すぎる。しかも、この土地は冬木に匹敵する霊地だ。膨大な地球の生命力であるマナを吸った木は、それだけで力ある存在。具体的に言うと、マナが充実すればそのたびにごく小規模の願望機として動くだろう。おそらくは、魔術等の能力に関係なく、無差別に。
とにかく、ここがどの勢力にとっても放置できない場所だったのは間違いない。
大した大きさのない荷物をもって、ゆっくりと道を歩いて行く。街の壮大さに反して人を殆ど見かけないのは、今が年明け間もないからだろう。いくら観光地に適した場所でも、学園が本来の役割なのだ。学生のいなくなる時期に、人がそう多くなる事はない。本来ならば、士郎達もこれほど早く来るつもりは無かったのだが。新学期に合わせると、どうしてもこうなってしまったのだ。これでもぎりぎりなくらいだ。
「道ってどっちだったっけ?」
ふと、慣れた感覚があるのに見覚えの無い、妙な違和感に惑う。隣のセイバーを見てみると、地図を出す所だった。軽く確認して、方向を指さす。
「こっちですね。急ぎますか?」
「いや……ゆっくり歩いて行ってもいいんじゃないかな」
「ふふ。そうしましょう」
肌寒いくらいの冬の風が、どこか心地よく。この景色を素通りして急ぐ気には、どうしてもなれなかった。
そう言えば、こうして風景を楽しみながらゆっくり歩くのも久しぶりだ。空が青いのを確認したのさえ、もう何年も知らなかった気さえする。
「しば
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