1話
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はない。しかし、顔を覚える程度には知っている相手。数ヶ月前に、人不足の図書館島で司書として雇った女性だ。融通が利かないものの、よく働く人、それだけの人物の筈だった。
「そ、その……そちらの方は……」
近右衛門は、自分の声が酷くかすれているのを自覚した。それを取り繕うには、自制心を失いすぎている。
「改めまして、バゼット・F・マクレミッツです。正確には、バゼット・『フラガ』・マクレミッツですが。魔術協会の執行者をしていました。これは元であり、現在フリーで活動していた所を、衛宮教授に雇われました」
ひぃ――部屋のどこかで――あるいは全体から、息を詰まらせたような悲鳴が上がった。同じように喉元まで上がっていた悲鳴を、すんでの所で止める事に成功する。関東魔法協会の長という矜持と義務が、それを許さなかった。
それでも、背筋を凍らせるような悪寒まで止められる訳では無い。理由は二つ。彼女も衛宮士郎同様、懐に入られながらも全く魔力を感じられなかった。いや、それどころか、魔術師だと数ヶ月も気づけなかったのだ。彼らが本気で魔術の隠蔽をした場合、魔法使いはそれに気づけない、そう語っている。
二つ目に、彼女は元執行者だと言った。
封印指定執行者。魔術師の中でも、さらに悪名高い存在。主な任務に、能力や危険度の高い魔術師を捕縛、封印処置するというものがある。つまり――彼女は対人戦闘のプロフェッショナルなのだ。
士郎の能力は疑いようも無ない。しかし、対魔法使い戦闘能力は未知数で済んでいてくれたのだ。楽観は敵だが、時には精神を安定させるのに役立ってくれる。この場合もそうだった。しかし、ここで執行者が出てきてしまった。魔術師の中でも、特に魔術攻略能力の高い者達。時には聖堂教会の代行者とも殺し合う化け物中の化け物。
そんな者が、果たして、対魔法使い戦闘を心得ていないなど、あり得るだろうか。そんな事、あるわけが無い。
士郎を挟んでセイバーの反対側に、さらに一歩引いて立つ。ただ直立しているだけの姿が、とても魔術師らしい。前者二人のように。
案内してきた刹那だけが、状況を分からず、怪訝そうに部屋の隅に寄る。今だけは、彼女の無知がうらやましい。
「着任は衛宮士郎が代表し、補佐として衛宮アルトリアとバゼット・フラガ・マクレミッツが着きます。常任枠に残り3つ、一時受け入れに5つの枠があります。確認を」
「確認しました」
気を取り直したのを確認するように、しっかりと言う。なんとか怯んだ空気を戻したい――できれば、こちらのペースにもっていかねば。とは言え、それが出来るなどとは、近右衛門は欠片も考えていなかったが。
なにしろ、出会い頭に特大の手札を切られたのだ。バゼット・フラガ・マクレミッツの存在は、魔術師の有能さと魔法使いの無能さを刻
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