1話
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相手は藤村雷画だったので、あまり心配せずされるがままになったのだが。それが、いけなかった。
ついたそこは、士郎の知っている藤村邸ではない。やたら豪華に装飾され、山のような料理が盛られたパーティー会場。そして大きな横断幕には「士郎おめでとう」の文字が。あまりにうれしかった大河が企画した、おめでとうパーティー。セイバー曰く、この時の士郎の顔色は、今にも自殺しそうだったそうな。
事情を知っているイリヤが全面協力していたのだから、たちが悪い。士郎の味方は桜だけだった。
居づらくなった士郎が逃げるように(と言うか完全に逃走だ)町を出て、麻帆良に到着したのが、つい先ほどの出来事である。
「藤ねえ、本当にごめん……」
「こう言っていいのかは分かりませんが、過ぎたことです。あまり気に病みすぎるのもよくない」
泣きが入った士郎を、背中をなでながら慰めるセイバー。当初は自業自得と傍観していたが、あまりの様子に、ちょっと哀れになってきていた。
「少し飲み物でも飲んで落ち着きましょうか」
「ああ、それなら俺が……」
周囲を見回したセイバーを制して言う。だが、振り向いた彼女の顔は憮然としたものだった。
「落ち着くのはシロウです。もう一度言いますが、私が、飲み物を買ってきますのでシロウはそこでおとなしくしていて下さい」
ぴっと、くにあるベンチが指さされる。それでも食い下がろうとしたが、その前に踵を返していた。
小さくなる背中を見ながら吐息を吐き、指示されたベンチに座る。彼女との付き合いは、決して短くない。もう五年になろうとしている。そして、その五年、一番長く時間を共にしたのがセイバーだった。彼女の事を理解しているようで、見切られているのはいつも自分だ。今も昔も変わらず、敵わない頭が上がらない。
腰掛けたベンチは、比較的新しいのか、音一つ立てない。
座って程なく、ててててて、という足音がした。セイバーにしては幾分テンポが早く――と言うか落ち着きが無い。士郎が振り向くのと、少女が視線を向けてきたのは、恐らく同時だった。
「およよ? 観光の人? この時期にめずらしーね」
髪をサイドアップにした、たぶん中学生くらいの少女。ジャージを着込み、うっすら汗をかいている。ランニングでもしていたのだろうか。全身から漂う快活な雰囲気が、落ち着きがなさそうな印象を固定させる。
「いや、観光じゃないよ」
「なになに? じゃー怪しいひと? きゃー」
にんまり、歪めた口元を手で隠しながら、わざとっぽく悲鳴を上げる。人なつっこさに、嫌みを全く感じない。天性の、人に好かれるのが上手い娘だった。その容姿もあって、さぞや人気だろう、などと詮無いことを考える。
「教師として、新しく赴任してきたんだ」
「え
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